第3章 STAGE 1
作図の約束と体
四則と √ で作れる長さ
🎯 ミッション
作図の約束(2点を通る直線・円・交点)を知り、長さ 1, a, b から a+b, a−b, ab, a/b, √a を作図する方法と、その理由(相似・円周角)を説明しよう。体の定義を言えて、ℚ や mod 7 が体で、ℤ や mod 6 が体でない理由を説明できれば合格。
未達成

ねこ博士
この章のテーマは、古代ギリシャから伝わる3つの作図問題だ。角の三等分(どんな角でも3つの等しい角に分ける)、立方体倍積(体積がちょうど2倍の立方体の辺を作る)、円積問題(円と同じ面積の正方形を作る)。使ってよい道具は、目盛りのない定規とコンパスだけだ。中学で、角の二等分線を作図したね。どうやったかな?

うさ美
角の頂点 O を中心に円をかいて、2本の辺との交点を P, Q とします。P と Q をそれぞれ中心にして同じ半径の円をかき、その交点 R と O を結ぶと二等分線です。OP=OQ、PR=QR、OR は共通なので、三角形 OPR と OQR は3辺がそれぞれ等しくて合同になり、角がちょうど半分ずつになります。

ねこ博士
そう。作図の約束をはっきりさせておこう。できることは次の3つだけだ。
① すでにある2点を通る直線を引く(定規に目盛りはないので、長さは測れない)
② すでにある点を中心に、すでにある別の点を通る円をかく
③ 直線や円どうしの交点を、新しい点として使う
この約束の中で、60° の角を三等分してごらん。
① すでにある2点を通る直線を引く(定規に目盛りはないので、長さは測れない)
② すでにある点を中心に、すでにある別の点を通る円をかく
③ 直線や円どうしの交点を、新しい点として使う
この約束の中で、60° の角を三等分してごらん。

うさ美
二等分ができたので、三等分も似た方法でできそうです。線分なら、平行線を使って三等分できます。そこで、O を中心とする円が2本の辺と交わる点を A, B として、弦 AB を三等分し、その2点と O を結んでみます。……でも、これでは角は等しくなりません。弦の真ん中の部分は、両端の部分よりも O に近いので、同じ長さの弦でも O から見た角は大きくなります。両端の2つの角は 20° より小さくなってしまいます。

ねこ博士
いいところに気づいたね。計算すると、両端の角は約 19.1°、真ん中の角は約 21.8° になる。二等分をくり返せば 30°, 15°, 7.5°, … は作れるけれど、20° はなかなか作れない。
作図板(60° の角を三等分できるか)。点 O, A, B(∠AOB=60°)から始める。「直線を引く」では点を2つ、「円をかく」では中心の点と、円が通る点を順にタップする。直線や円を引くたびに、すべての交点が新しい点として加わる。赤い点線が目標の 20° の方向。たとえば A と B を中心に半径 AB の円を2つかき、その交点と O を結ぶと 30° の線が引ける。どんなに点を増やしても、ぴったり 20° の点は現れない

うさ美
二等分をくり返しても、60° を 2, 4, 8, … で割った角しか作れません。20° にするには 3 で割らなければいけないので、二等分だけでは届きません。でも、ほかの直線や円をうまく組み合わせれば、いつかできるかもしれません。

ねこ博士
多くの人がそう考えて、2000年以上も挑戦した。答えが出たのは1837年だ。フランスのヴァンツェルが、60° の角の三等分も立方体倍積も、定規とコンパスではできないことを証明したんだ。「できる」ことは、作図を1つ見せれば示せる。では、「できない」ことを示すには、どうすればいいと思う?

うさ美
ためした作図をいくら並べても、まだためしていない作図があるので、「できない」とは言えません。第1章の15パズルでは、どう動かしても変わらない「偶奇」に注目して、解けないことを証明しました。作図でも、作図できるものすべてに共通する性質を見つけて、20° の角がその性質をもたないことを示せばいい、ということですか?

ねこ博士
その通り。そのために、作図できる長さを全部まとめて1つの「数の世界」として扱う。その道具が、今日から学ぶ体(たい)だ。この章の終わりには、ギリシャの3つの問題に決着をつけ、どの正多角形が作図できるかを判定し、さらに QR コードが汚れても読める仕組みまで、同じ道具で説明できるようになる。
この章でできるようになること・定規とコンパスで作図できる長さが、四則演算(+ − × ÷)と √ で作れる数であることがわかる
・割り算までできる数の世界「体」を、√ を足しながらひろげ、そのひろがり具合(次数)を測れる
・角の三等分と立方体倍積が不可能であることを、自分で証明できる
・正5角形が作図でき、正7角形が作図できない理由を説明できる。ガウスの正17角形の意味がわかる
・有限個の数でできた体を使って、QR コードの誤り訂正のしくみを説明できる
・割り算までできる数の世界「体」を、√ を足しながらひろげ、そのひろがり具合(次数)を測れる
・角の三等分と立方体倍積が不可能であることを、自分で証明できる
・正5角形が作図でき、正7角形が作図できない理由を説明できる。ガウスの正17角形の意味がわかる
・有限個の数でできた体を使って、QR コードの誤り訂正のしくみを説明できる

うさ美
第1章で、群という道具が15パズルの謎を解いたのと同じ流れですね。作図できる長さを全部まとめるなら、まず、どんな長さが作図できるのかを調べるところから始める、ということですか?

ねこ博士
そう。点を2つ決めて、その距離を長さ 1 とする。長さ a と b の線分があるとき、a+b と a−b(ただし a>b)はどう作るかな?

うさ美
直線上に長さ a の線分 OA をとり、A を中心に半径 b の円をかきます。円と直線の交点は2つあって、O から遠いほうの点までが a+b、近いほうの点までが a−b です。

ねこ博士
うん。では、掛け算 ab はどうかな? 使ってよいのは、長さ 1・a・b の線分と、平行線の作図と、相似な三角形だ。平行線は、垂線を2回引けば作図できるね。

うさ美
O から2本の半直線を引きます。1本目に OE=1 と OB=b、2本目に OA=a をとります。E と A を結び、B を通って EA に平行な直線を引いて、2本目の半直線との交点を P とします。平行線の同位角は等しいので、三角形 OEA と OBP は相似です。相似比は OE:OB=1:b なので、OP=b×OA=ab です。

ねこ博士
その通り。割り算 a/b(b>0)はどうかな?

うさ美
今度は、1本目に OB=b と OE=1 をとり、B と A を結びます。E を通って BA に平行な直線を引き、2本目との交点を P とすると、三角形 OBA と OEP が相似です。OP:OA=OE:OB=1:b なので、OP=a/b です。
作るもの
四則と √ の作図(a=2、b=1.5 の場合)。作るものを選び、「次へ」で1手ずつ進める。赤がいま引いた線や円、太い緑の線分ができあがった長さ。積と商は、平行線で相似な三角形を作るのがポイント。√a は、AB=a と BC=1 を並べた線分 AC を直径とする半円に、B で垂線を立てて作る

ねこ博士
よし。最後は √ だ。直線上に AB=a、BC=1 となるように点 A, B, C を並べ、AC を直径とする半円をかく。B で AC に垂線を立て、半円との交点を H とする。BH の長さを求めてごらん。

うさ美
直径に対する円周角は 90° なので、∠AHC=90° です。三角形 ABH と三角形 HBC で、∠ABH=∠HBC=90° です。三角形 ABH の内角から ∠BAH=90°−∠AHB、∠AHC=90° から ∠BHC=90°−∠AHB なので、∠BAH=∠BHC。2つの角が等しいので相似です。BH:AB=BC:BH から BH²=AB×BC=a×1=a。BH=√a です!
和と差:直線上の OA=a の先に、A を中心に半径 b の円 → 交点までの長さが a+b と a−b
積:OE=1、OB=b、OA=a。B を通り EA に平行な直線 → 三角形 OEA と OBP は相似(相似比 1:b)→ OP=ab
商:OB=b、OE=1、OA=a。E を通り BA に平行な直線 → 三角形 OBA と OEP は相似(相似比 b:1)→ OP=a/b
√:AB=a、BC=1、AC を直径とする半円、B での垂線と半円の交点 H
∠AHC=90°(直径に対する円周角)
三角形 ABH と HBC は相似 → BH:AB=BC:BH → BH²=a×1 → BH=√a
∠AHC=90°(直径に対する円周角)
三角形 ABH と HBC は相似 → BH:AB=BC:BH → BH²=a×1 → BH=√a

ねこ博士
その通り。長さ 1 から始めると、足し算で 2, 3, 4, … が作れて、向きを逆にとれば負の数も作れる。割り算で 2/3 のような数も作れる。整数 m と 0 でない整数 n を使って m/n と書ける数を有理数といい、有理数全体を ℚ と書く。ℚ の数はすべて作図できるわけだ。そのうえ √ を何度でも組み合わせられるから、√2 や 1+√3、√(1+√2) も作図できる。

うさ美
作図できる長さどうしを足しても、引いても、掛けても、0 以外で割っても、また作図できる長さになります。第2章の環は、足し算・引き算・掛け算で閉じた数の世界でしたが、作図できる数の集まりは、割り算でも閉じています。

ねこ博士
そう、そこが大事なんだ。0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算に加えて、0 以外の数での割り算でも閉じている数の世界を体(たい)という。第2章の言葉で言えば、「0 以外の数がすべて単数(掛けて 1 になる相手がいる数)である環」だ。なぜこう決めるかというと、作図できる長さの集まりが、ちょうどこの性質をもつからだ。それに、体の中なら a≠0 のとき ax=b という方程式がいつでも x=b/a と解けて、計算の途中で外に出ることがない。有理数全体 ℚ は体だね。整数全体 ℤ はどうかな?

うさ美
ℤ は環ですが、1 を 2 で割ると 1/2 になって、整数ではなくなります。2 に掛けて 1 になる整数はないので、ℤ は体ではありません。第2章のガウス整数 a+bi も、1 を 2 で割れないので体ではありません。でも、a と b を有理数にした a+bi なら、分母と分子に a−bi を掛ければ分母が有理数の a²+b² になるので、割り算もできて体になりそうです。

ねこ博士
その通り。実数全体、複素数全体も体だ。では、第1章の mod の世界はどうかな。mod 7 と mod 6 で考えてごらん。

うさ美
mod 7 では、7 で割り切れない a に対して、第2章の互除法で ax+7y=1 となる整数 x, y が作れます。両辺を 7 で割った余りを比べると ax≡1 (mod 7) なので、x が a の逆数です。0 以外のどの数にも逆数があるので、mod 7 の世界は体です。mod 6 では 2×3=6≡0 です。もし 2 に逆数 x があったら、3=(x×2)×3=x×(2×3)≡x×0=0 となって矛盾します。だから mod 6 の世界は体ではありません。
mod n の世界で、逆数(掛けて 1 になる相手)があるか。上の段が 1 から n−1 までの数、下の段がその逆数。緑は逆数がある数、赤は逆数がない数。n が素数のときだけ全部が緑になり、mod n の世界は体になる。n が素数でないときは、n と共通の約数をもつ数に逆数がない

ねこ博士
その通り。p が素数なら mod p の世界は体になり、p が素数でなければ体にならない。mod p の体は、この章の最後で QR コードを説明するときの主役になる。ここで、体の定義と例をまとめておこう。
体(たい)0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算と、0 以外の数での割り算について閉じている数の世界。言いかえると、0 以外の数がすべて単数である環。
・体の例:有理数全体 ℚ、実数全体、複素数全体、a と b が有理数の a+bi 全体、mod 7 の世界(p が素数なら mod p の世界)
・体でない例:整数全体 ℤ(2 で割れない)、ガウス整数(2 で割れない)、mod 6 の世界(2 に逆数がない)
・体の例:有理数全体 ℚ、実数全体、複素数全体、a と b が有理数の a+bi 全体、mod 7 の世界(p が素数なら mod p の世界)
・体でない例:整数全体 ℤ(2 で割れない)、ガウス整数(2 で割れない)、mod 6 の世界(2 に逆数がない)

うさ美
作図できる数は、ℚ から始めて四則と √ で作れる数を全部含みます。でも逆に、作図できる数がすべて四則と √ で書けるかどうかは、まだ分かりません。円と円の交点のように、もっと複雑な数が出てくるかもしれません。

ねこ博士
いい質問だね。実は、作図で出てくる数は、すべて ℚ から四則と √ で作れる数なんだ。直線や円の交点を求める計算は、いちばん複雑でも2次方程式になるからね。このことは STAGE4 で確かめる。すると、作図の問題は数の問題に言いかえられる。

うさ美
60° の三等分は、半径 1 の円の上に 20° の方向の点を作ることなので、その横の座標 cos 20° が作れるかどうか。立方体倍積は、体積 2 の立方体の辺 ∛2 が作れるかどうか。どちらも「ℚ から四則と √ だけで書けるか」という問題になります。でも、√ を何重にも組み合わせた式は無限にあるので、全部を調べることはできません。

ねこ博士
そう。だから、ℚ に √ を1つずつ足して体をひろげていき、どれくらいひろがったかを「次数」という数で測る。次のステージでは、いちばん簡単な例として、ℚ に √2 を足した体を作ってみよう。
【このステージの成果】
作図の約束:2点を通る直線、点を中心に別の点を通る円、交点だけが新しい点
長さ 1, a, b から a+b、a−b、ab、a/b(平行線と相似)、√a(半円と垂線、円周角と相似)が作図できる
体:0 と 1 を含み、四則(0 以外での割り算も)で閉じた数の世界。0 以外がすべて単数の環
体の例:ℚ、実数、複素数、mod p(ax+py=1 で逆数が作れる)。体でない例:ℤ、ガウス整数、mod 6
作図の問題は「その数が ℚ から四則と √ で作れるか」という数の問題になる。「できない」の証明には、作図できる数すべてに共通する性質を探す
確認クイズ
Q1. 長さ 1 と a の線分から √a を作図する方法は?
正解! 直径に対する円周角は 90° なので、三角形 ABH と HBC は相似。BH:AB=BC:BH から BH²=a×1=a。正方形の対角線は √2×a になる。
Q2. 次のうち、体であるものは?
正解! 5 は素数なので、5 で割り切れない a には ax+5y=1 となる x があり、x が a の逆数になる。ℤ では 2 で割れず、mod 6 では 2×3≡0 なので 2 に逆数がない。
Q3. 「60° の角は定規とコンパスで三等分できない」と証明するための方針として、正しいものは?
正解! 作図のしかたは無限にあるので、試すだけでは「できない」とは言えない。15パズルで偶奇を使ったように、どう作図しても変わらない性質を探す。この章では、それが「次数が2の累乗」になる。