第3章 STAGE 2
体をひろげる
ℚ(√2) と拡大の次数
🎯 ミッション
ℚ(√2)={a+b√2} が四則で閉じた体であること(割り算は分母の有理化)、どの数も a+b√2 とただ1通りに書けるので次数が 2 であることを説明しよう。√3 が ℚ(√2) に入らないことを証明し、ℚ(√2,√3) の次数が 4 であることを確かめられれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、作図できる数は、ℚ(有理数全体)から始めて四則と √ で作れる数だと分かった。∛2 や cos 20° が作図できないことを示すには、√ を1つ足すと数の世界がどれだけひろがるのかを、きちんと測る必要がある。今日は、いちばん簡単な例として ℚ に √2 を足してみよう。有理数と √2 を足し引き掛け算して、(1+√2)² と (3−√2)(1+2√2) を計算してごらん。

うさ美
(1+√2)²=1+2√2+2=3+2√2。(3−√2)(1+2√2)=3+6√2−√2−2×2=−1+5√2。どちらも「有理数+有理数×√2」の形になりました。√2 どうしを掛けると (√2)²=2 で有理数に戻るので、何回掛けても a+b√2 の形から出ません。

ねこ博士
そう。足し算と引き算は、a どうし、b どうしをまとめればいいね。では割り算はどうかな。1/(1+√2) を a+b√2 の形にしてごらん。

うさ美
中学で習った分母の有理化です。分母と分子に 1−√2 を掛けると、(1−√2)/((1+√2)(1−√2))=(1−√2)/(1−2)=−1+√2。一般には、1/(a+b√2) の分母と分子に a−b√2 を掛けて、(a−b√2)/(a²−2b²) です。

ねこ博士
その分母 a²−2b² が 0 になってしまうことはないかな? a, b は有理数で、a+b√2 は 0 でないとしよう。

うさ美
b=0 なら a≠0 なので a²−2b²=a²≠0 です。b≠0 で a²=2b² だとすると (a/b)²=2 なので、√2 が有理数 ±a/b になってしまいます。√2 は有理数ではありません。もし √2=p/q(整数)なら p²=2q² ですが、素因数分解したとき左辺の 2 の個数は偶数、右辺の 2 の個数は奇数になって、素因数分解がただ1通りであることに反するからです。だから分母は 0 になりません。
掛け算:(a+b√2)(c+d√2)=ac+ad√2+bc√2+bd(√2)²
=(ac+2bd)+(ad+bc)√2((√2)²=2 で有理数に戻る) 割り算:1/(a+b√2)=(a−b√2)/((a+b√2)(a−b√2))
=(a−b√2)/(a²−2b²)
=a/(a²−2b²)+(−b/(a²−2b²))√2(分母の有理化) 分母 a²−2b² は 0 にならない(0 になると √2 が有理数になってしまう)
=(ac+2bd)+(ad+bc)√2((√2)²=2 で有理数に戻る) 割り算:1/(a+b√2)=(a−b√2)/((a+b√2)(a−b√2))
=(a−b√2)/(a²−2b²)
=a/(a²−2b²)+(−b/(a²−2b²))√2(分母の有理化) 分母 a²−2b² は 0 にならない(0 になると √2 が有理数になってしまう)
÷
ℚ(√2) の割り算機。割られる数 a+b√2 と割る数 c+d√2 の整数 a, b, c, d を入れると、分母と分子に c−d√2 を掛けて計算し、答えを「有理数+有理数×√2」の形で示す。最後の行で、答えに割る数を掛けるともとに戻ることを確かめている。割る数を 0 以外にすると、分母 c²−2d² は決して 0 にならない

ねこ博士
その通り。だから、a と b を有理数とする a+b√2 の形の数全体は、四則で閉じた体になる。これを ℚ(√2) と書く。一般に、体 K に数 α を加えて、K の数と α から四則で作れる数を全部集めた体を K(α) と書き、K をひろげた体(拡大体)と呼ぶ。こう決めるのは、作図で √ を1回使うことが、ちょうど「体に √ を1つ加える」ことにあたるからだ。いま確かめたのは、ℚ(√2) の数がすべて a+b√2 の形をしている、ということだね。

うさ美
ℚ(√2) の数を1つ選ぶと、有理数の組 (a, b) が決まります。逆に、組 (a, b) が決まれば数 a+b√2 が決まります。でも、違う組から同じ数が出てくることはないんですか?

ねこ博士
いい質問だね。a+b√2=c+d√2 で、(a, b) と (c, d) が違うとしてごらん。

うさ美
移項すると (b−d)√2=c−a。もし b≠d なら √2=(c−a)/(b−d) で、√2 が有理数になってしまいます。だから b=d で、すると c−a=0 なので a=c。違う組から同じ数が出ることはありません。ℚ(√2) の数と、有理数の組 (a, b) は、ちょうど1つずつ対応しています。
加える数
組 (a, b) と数 a+b√2 の対応。上の格子点が整数の組 (a, b)(a は −3〜3、b は −2〜2 の 35 組)、下の数直線がそれを移した先 a+b√2。選んだ組(赤)がどこへ移るかを線で結んだ。√2 を加えると 35 組が 35 個の別々の数に移る。加える数を有理数 1.5 にすると、たとえば (3, 0) と (0, 2) が同じ 3 に移ってしまい、組と数が1つずつ対応しなくなる

ねこ博士
その通り。ℚ(√2) のどの数も、1 と √2 の2つを使って「a×1+b×√2」とただ1通りに書ける。このように、ひろげた体 L のどの数も、いくつかの数 u₁, u₂, … を使って「K の数×u₁+K の数×u₂+…」とただ1通りに書けるとき、u₁, u₂, … を L の K 上の基底(きてい)と呼び、その個数を拡大の次数といって [L:K] と書く。[ℚ(√2):ℚ]=2 だ。

うさ美
「ただ1通り」という条件は、何のためにあるんですか? 1, √2, 3+√2 の3つを使っても、ℚ(√2) のどの数も書けます。

ねこ博士
それが理由なんだ。1, √2, 3+√2 を使うと、3+√2 は「1×(3+√2)」とも「3×1+1×√2」とも書けて、書き方が何通りもできる。むだな数が混じると、個数が水増しされてしまう。「ただ1通り」を条件にすれば、むだのない組だけを数えることになって、次数は体そのものの大きさを表す数になる。ℚ の数は1つの有理数で決まるから、ℚ を直線にたとえると、ℚ(√2) は2つの有理数で決まる平面のようなものだね。
拡大体と次数・K(α):体 K に数 α を加え、K の数と α から四則で作れる数を全部集めた体
・基底:L のどの数も「K の数×u₁+K の数×u₂+…」とただ1通りに書けるような数の組 u₁, u₂, …
・次数 [L:K]:基底の個数(L が K からどれだけひろがったか)
・例:ℚ(√2)={a+b√2|a, b は有理数}、基底 1, √2、[ℚ(√2):ℚ]=2
・基底:L のどの数も「K の数×u₁+K の数×u₂+…」とただ1通りに書けるような数の組 u₁, u₂, …
・次数 [L:K]:基底の個数(L が K からどれだけひろがったか)
・例:ℚ(√2)={a+b√2|a, b は有理数}、基底 1, √2、[ℚ(√2):ℚ]=2

うさ美
同じように考えると、ℚ(√3) も a+b√3 の形の数全体で、次数は 2 です。でも、√8 を加えても √8=2√2 なので ℚ(√8)=ℚ(√2) です。√ を加えれば必ず新しい体になるわけではないんですね。

ねこ博士
そう。だから、加える数がすでに体に入っているかどうかを確かめることが大事になる。では、ℚ(√2) にさらに √3 を加えることを考えよう。√3 は ℚ(√2) に入っているかな? √3=a+b√2(a, b は有理数)と書けたとして、矛盾を導いてごらん。

うさ美
両辺を2乗すると 3=a²+2ab√2+2b² です。ab≠0 なら √2=(3−a²−2b²)/(2ab) で √2 が有理数になって矛盾。b=0 なら √3=a が有理数になって矛盾。a=0 なら 3=2b² なので (2b)²=6 となり、√6 が有理数になります。√6=p/q なら p²=6q² で、2 の個数が左辺は偶数、右辺は奇数なので、これも矛盾です。どの場合もだめなので、√3 は ℚ(√2) に入りません。
√3=a+b√2(a, b は有理数)と書けたとする
両辺を2乗:3=a²+2b²+2ab√2
ab≠0 のとき:√2=(3−a²−2b²)/(2ab) が有理数になり、矛盾
b=0 のとき:√3=a が有理数になり、矛盾
a=0 のとき:3=2b² から (2b)²=6、√6 が有理数になり、矛盾(p²=6q² では 2 の個数の偶奇が合わない)
よって √3 は ℚ(√2) に入らない

ねこ博士
よく確かめたね。すると、K=ℚ(√2) を出発点にして、K に √3 を加えた体 K(√3) が作れる。これを ℚ(√2, √3) と書く。K の数を係数にした x+y√3(x, y は K の数)が体になる理由は、さっきの √2 の話と同じだ。分母の x²−3y² が 0 にならないのは、√3 が K に入らないからだね。だから [ℚ(√2, √3):ℚ(√2)]=2。では、ℚ(√2, √3) の数を、有理数だけを係数にして書くとどうなるかな?

うさ美
x=a+b√2、y=c+d√2(a, b, c, d は有理数)とすると、x+y√3=a+b√2+c√3+d√2√3=a+b√2+c√3+d√6。1, √2, √3, √6 の4つを使えば書けます。この書き方がただ1通りなら、[ℚ(√2, √3):ℚ]=4 です。

ねこ博士
そう。ただ1通りかどうかは、2つの書き方が同じ数になったとして、その差を考えるといい。差をとると、「a+b√2+c√3+d√6=0 なら a=b=c=d=0」を示せば十分だ。

うさ美
a+b√2+c√3+d√6=(a+b√2)+(c+d√2)√3=0 です。ℚ(√2, √3) の数は、ℚ(√2) の数 x, y を使って x+y√3 とただ1通りに書けるので、0=0+0×√3 と比べて、a+b√2=0、c+d√2=0。ℚ(√2) の数もただ1通りに書けるので、a=b=0、c=d=0。[ℚ(√2, √3):ℚ]=4 です。
拡大の塔。下から上へ、√2 を加え、さらに √3 を加えた。それぞれの段の次数は 2 で、ℚ からてっぺんまでの次数は 4。てっぺんの基底 1, √2, √3, √6 は、下の段の基底 1, √2 と、上の段の基底 1, √3 を1つずつ掛け合わせた4つになっている

ねこ博士
その通り。2 倍にひろがった体を、さらに 2 倍にひろげたから、全体は 4 倍になった。次数がこのように掛け算になることは STAGE4 でくわしく調べる。体の中では割り算も自由にできるから、思わぬ数が入っていることもある。ℚ(√2+√3) にはどんな数が入っているか、調べてごらん。

うさ美
1/(√2+√3) の分母と分子に √3−√2 を掛けると、(√3−√2)/(3−2)=√3−√2 です。だから √2+√3 と √3−√2 が両方 ℚ(√2+√3) に入ります。足して 2 で割ると √3、引いて 2 で割ると √2。結局 √2 も √3 も入っているので、ℚ(√2+√3)=ℚ(√2, √3) です。1つの数を加えただけで、次数 4 の体になるんですね。

ねこ博士
そう。体をひろげるときは、何を加えたかより、どれだけひろがったかが大事なんだ。では、立方体倍積の ∛2 を加えた体 ℚ(∛2) はどうなるかな?

うさ美
(∛2)²=∛4 は a+b∛2 の形には書けそうにありません。(∛2)³=2 で有理数に戻るので、1, ∛2, ∛4 の3つがあれば掛け算は閉じそうです。でも、1/(1+∛2) は、分母の有理化のように1回掛けるだけでは整理できません。

ねこ博士
いいところに気づいたね。√ のときは「2乗すると有理数」を使えたけれど、∛ ではそうはいかない。次のステージでは、多項式の割り算という道具を作って、ℚ(∛2) の割り算と次数を求めよう。
【このステージの成果】
ℚ(√2)={a+b√2|a, b は有理数} は体。掛け算は (√2)²=2、割り算は分母の有理化で、分母 a²−2b² は 0 にならない
K(α):体 K に α を加え、四則で作れる数を全部集めた体(拡大体)
基底:どの数も「K の数×u₁+K の数×u₂+…」とただ1通りに書ける数の組。その個数が次数 [L:K]。[ℚ(√2):ℚ]=2
√3 は ℚ(√2) に入らない(2乗すると √2, √3, √6 のどれかが有理数になって矛盾)
ℚ(√2, √3) の基底は 1, √2, √3, √6。[ℚ(√2, √3):ℚ]=4=2×2。しかも ℚ(√2+√3)=ℚ(√2, √3)
確認クイズ
Q1. 1/(1+√2) を a+b√2 の形にすると?
正解! 分母と分子に 1−√2 を掛けると (1−√2)/(1−2)=−(1−√2)=−1+√2。確かめ:(1+√2)(−1+√2)=−1+√2−√2+2=1。
Q2. [ℚ(√2, √3):ℚ](ℚ(√2, √3) の ℚ 上の次数)は?
正解! どの数も a+b√2+c√3+d√6(a, b, c, d は有理数)とただ1通りに書けるので、基底は 1, √2, √3, √6 の4個。2×2=4。
Q3. √3 が ℚ(√2) に入らないことの証明で使ったことは?
正解! 3=a²+2b²+2ab√2 から、ab≠0 なら √2 が、b=0 なら √3 が、a=0 なら √6 が有理数になって矛盾する。