🔷 群・環・体からガロア理論へ
第3章 四則演算と作図 / STAGE 3 ― 多項式の世界 ―
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第3章 STAGE 3

多項式の世界

最小多項式と次数
🎯 ミッション
多項式の余りのある割り算を筆算で実行し、互除法で 1/(1+∛2) を計算しよう。最小多項式が既約であること、ℚ(α) の次数が最小多項式の次数に等しいことを説明し、有理根の判定で x³−2 が既約であることを示せれば合格。
未達成
ねこ博士
前のステージで、ℚ(∛2) では 1/(1+∛2) のような割り算を分母の有理化だけでは整理できない、と分かった。α=∛2 とおくと、α から四則で作った数は「x に α を入れた式の値」になる。だから、x の式そのものを計算の対象にすれば、ℚ(α) の割り算も、次数も求められるんだ。今日の道具は多項式だ。2x³+x²−5x+4 のように、x の累乗に数を掛けて足した式のことで、x の指数のいちばん大きいものを、その多項式の次数という。この章では、係数が有理数の多項式を考える。
うさ美
多項式どうしは、足しても引いても掛けても、また多項式になります。だから多項式全体は環です。でも、1 を x で割った 1/x は多項式ではないので、体ではありません。整数全体 ℤ と同じ立場です。第2章では、整数の素因数分解や互除法の土台に「余りのある割り算」がありました。多項式でも、余りのある割り算ができるんですか?
ねこ博士
できるんだ。多項式 f を、0 でない多項式 g で割ると、f=q×g+r と書けて、余り r の次数を g の次数より小さくできる。整数で「余りが割る数より小さい」と言っていたところを、「余りの次数が割る数の次数より小さい」に置きかえるわけだ。やり方は、いちばん次数の高い項を消すように商を決めていく。(2x³+x²−5x+4)÷(x²+x−1) で、まず 2x³ を消すには、x²+x−1 に何を掛ければいいかな?
うさ美
2x³÷x²=2x なので 2x を掛けます。2x(x²+x−1)=2x³+2x²−2x を引くと、(2x³+x²−5x+4)−(2x³+2x²−2x)=−x²−3x+4。次は −x² を消すために −1 を掛けて、−(x²+x−1)=−x²−x+1 を引くと、−2x+3。次数が 1 になって、割る式の次数 2 より小さいので止まります。商は 2x−1、余りは −2x+3 です。
割り算
多項式の割り算の筆算。列は x³, x², x, 定数の項(x⁴ がある式ではその列も)をそろえて並べている。「次へ」で1手ずつ進む。いちばん次数の高い項を消すように商の項を決め、割る式に掛けたもの(青)を引く。残った式(赤)の次数が割る式の次数より小さくなったら、それが余り
ねこ博士
その通り。この筆算は、整数の割り算の筆算とそっくりだね。1つ大事な使い方がある。f(x) を x−r で割ると、余りはどうなるかな?
うさ美
x−r の次数は 1 なので、余りの次数は 0、つまり定数 c です。f(x)=(x−r)q(x)+c に x=r を入れると、f(r)=0×q(r)+c=c。余りは f(r) です。だから、f(r)=0 のときは余りが 0 で、f(x) は x−r で割り切れます。
多項式の余りのある割り算:f=q×g+r、ただし r の次数は g の次数より小さい(または r=0) 例:2x³+x²−5x+4=(2x−1)(x²+x−1)+(−2x+3) x−r で割ると:f(x)=(x−r)q(x)+c。x=r を入れて c=f(r) f(r)=0 なら、f(x) は x−r で割り切れる
ねこ博士
そう。では、ℚ(∛2) の計算に使おう。α=∛2 は α³−2=0 をみたす。α⁴+α+1 のように α の累乗が入った数は、x⁴+x+1 を x³−2 で割って考えるといい。
うさ美
x⁴+x+1=x(x³−2)+3x+1 です。x に α を入れると α³−2=0 なので、α⁴+α+1=α×0+3α+1=3α+1。どんな多項式 f でも、x³−2 で割った余りは2次以下なので、f(α) は a+bα+cα²(a, b, c は有理数)の形になります。
ねこ博士
その通り。次は割り算だ。1/(1+α) を求めたい。第2章で、互除法を逆にたどって ax+py=1 を作ったね。それと同じことを多項式でやってみよう。x³−2 を x+1 で割ってごらん。
うさ美
x³−2=(x+1)(x²−x+1)−3 です。移項すると 3=(x+1)(x²−x+1)−(x³−2)。x に α を入れると α³−2=0 なので、3=(1+α)(α²−α+1)。両辺を 3(1+α) で割ると、1/(1+α)=(α²−α+1)/3。確かめると、(1+α)(α²−α+1)=α³+1=3 で合っています。第2章の ax+py=1 と同じ形です!
x³−2=(x+1)(x²−x+1)−3(筆算の結果) 3=(x+1)(x²−x+1)−(x³−2)(移項して、ax+py=1 と同じ形にする) x=α=∛2 を入れると α³−2=0 なので 3=(1+α)(α²−α+1) 1/(1+∛2)=(∛4−∛2+1)/3
ねこ博士
よくできたね。いまは x+1 と x³−2 に共通の因数がなかったから、互除法の最後に定数が出てきた。いつもそうなることを保証するのが、素数にあたる多項式だ。次数 1 以上の多項式で、次数の低い2つの多項式(係数は有理数)の積に書けないものを既約多項式(きやくたこうしき)という。第2章の既約元の多項式版だね。0 でない定数は掛けて 1 になる相手がいる単数なので、分けたうちに数えない。たとえば x²−1=(x−1)(x+1) は既約でない。ここで、多項式に入れると値が 0 になる数を、その多項式の根(こん)と呼ぶことにしよう。x²−1 の根は 1 と −1 だ。x²−2 はどうかな?
うさ美
x²−2 を1次式2つに分けると、x²−2=(x−r)(x−s) の形になって、r は x²−2 の根なので r=±√2 です。√2 は有理数ではないので、有理数の係数では分けられません。x²−2 は既約です。でも、√2 も係数に使ってよければ (x−√2)(x+√2) と分けられます。どの体の数を係数にするかで、既約かどうかが変わるんですね。
ねこ博士
そう。第2章で、2 が整数では既約元なのにガウス整数では (1+i)(1−i) と分けられたのと同じだ。2次や3次の多項式なら、既約かどうかはもっと簡単に判定できる。理由を考えてごらん。
うさ美
2次式や3次式を、次数の低い2つの多項式に分けると、次数は 1+1 か 1+2 なので、必ず1次式が混じります。1次式 ax+b(a≠0)は x=−b/a で 0 になるので、もとの式は有理数の根をもちます。逆に、有理数の根 r があれば x−r で割り切れます。つまり、2次式・3次式は、有理数の根がないとき、そのときに限って既約です。
ねこ博士
その通り。ただし 4 次以上では、この判定は使えない。x⁴+4 は有理数の根をもたない(x⁴+4 はいつも 4 以上)のに、2次式2つに分けられるんだ。(x²+2x+2)(x²−2x+2) を展開してごらん。
うさ美
x⁴−2x³+2x²+2x³−4x²+4x+2x²−4x+4=x⁴+4。本当に分けられました。4次式は、1次式を含まずに 2+2 と分かれることがあるんですね。
ねこ博士
そう。では、この章で大事な定義をしよう。α を根にもつ有理数係数の多項式のうち、次数がいちばん低く、いちばん高い次数の項の係数が 1 のものを、α の最小多項式という。α がみたす「いちばん簡単な式」だ。こう決めるのは、ℚ(α) の中の計算が、すべてこの式で決まるからなんだ。たとえば √2 の最小多項式は x²−2。1次式 x−r だと r=√2 が有理数になってしまうからね。最小多項式は必ず既約になる。理由を説明してごらん。
うさ美
最小多項式 m が、次数の低い2つの多項式の積 g×h に分けられたとします。m(α)=g(α)h(α)=0 です。もし g(α)≠0 なら、体の中では g(α) で割れるので h(α)=0 になります。どちらにしても、m より次数の低い多項式が α を根にもってしまい、m の次数がいちばん低いことに反します。だから最小多項式は既約です。
ねこ博士
その通り。逆に、α を根にもつ既約多項式 p があれば、p は最小多項式の定数倍になる。p を最小多項式 m で割って p=q×m+r とすると、r(α)=p(α)−q(α)m(α)=0 で、r の次数は m より低いから、r は 0 でなければならない。すると m は p を割り切るけれど、p は既約だから、p は m の定数倍しかない。では、∛2 の最小多項式は何かな?
うさ美
x³−2 は ∛2 を根にもつ3次式です。有理数の根 r があったら r³=2 です。r=p/q(整数)なら p³=2q³ ですが、素因数分解すると左辺の 2 の個数は 3 の倍数、右辺の 2 の個数は「3 の倍数+1」なので、ありえません。有理数の根がない3次式なので x³−2 は既約で、∛2 の最小多項式は x³−2 です。
ねこ博士
よし。最後の仕上げだ。ℚ(∛2) の数は a+bα+cα² の形に書けると分かった。これがただ1通りかどうかを確かめてごらん。
うさ美
2通りに書けたとして差をとると、a+bα+cα²=0 で、a, b, c のどれかが 0 でない形になります。すると α は 2次以下の多項式 a+bx+cx² の根になって、最小多項式 x³−2 の次数 3 がいちばん低いことに反します。だから書き方はただ1通りで、1, α, α² が基底です。[ℚ(∛2):ℚ]=3。最小多項式の次数と、体の次数が同じ 3 になりました。
最小多項式と次数・既約多項式:次数の低い2つの多項式の積に書けない多項式(素数・既約元にあたる)
・2次式・3次式は、有理数の根がない ⇔ 既約(4次以上では成り立たない:x⁴+4=(x²+2x+2)(x²−2x+2))
・α の最小多項式:α を根にもつ有理数係数の多項式のうち、次数がいちばん低く、最高次の係数が 1 のもの。必ず既約で、α を根にもつ既約多項式はその定数倍
・[ℚ(α):ℚ]=α の最小多項式の次数(最小多項式の次数を n とすると、基底は 1, α, α², …, αⁿ⁻¹)
・例:√2 → x²−2(次数 2)、∛2 → x³−2(次数 3)
ねこ博士
「次数」という言葉が、多項式の次数と体の次数の2つの意味で出てきたけれど、α については2つがいつも一致する。これからは、α の最小多項式の次数を、単に「α の次数」と呼ぼう。次数を求めるには、最小多項式を見つけて、それが既約だと確かめればいい。3次式の既約性は有理数の根があるかどうかで決まるけれど、有理数は無限にあるから、全部は試せない。そこで、根の候補をしぼる方法がある。整数係数の3次式 ax³+bx²+cx+d が、既約分数 p/q を根にもつとしよう。両辺に q³ を掛けてごらん。
うさ美
a(p/q)³+b(p/q)²+c(p/q)+d=0 に q³ を掛けると、ap³+bp²q+cpq²+dq³=0。dq³=−p(ap²+bpq+cq²) なので、p は dq³ を割り切ります。p と q は共通の素因数をもたないので、p の素因数はどれも q³ を割り切りません。第2章の「素数は素元」から、p の素因数は d を割り切り、p は d を割り切ります。同じように ap³=−q(bp²+cpq+dq²) から、q は a を割り切ります。p は定数項 d の約数、q は最高次の係数 a の約数です。
既約分数 p/q が ax³+bx²+cx+d=0(係数は整数)の根だとする q³ を掛ける:ap³+bp²q+cpq²+dq³=0 dq³=−p(ap²+bpq+cq²) → p は dq³ を割り切り、q とは共通の素因数がない → p は d の約数 ap³=−q(bp²+cpq+dq²) → 同じ理由で q は a の約数 例:x³−3x−1 の有理数の根の候補は ±1 だけ。1−3−1=−3、−1+3−1=1 でどちらも根でない → 既約
有理数の根の候補を調べる。3次式のグラフと、有理数の根の候補(±(定数項の約数)/(最高次の係数の約数))を x 軸上に並べた。候補での値が 0 なら緑、0 でなければ赤。x³−2 と x³−3x−1 は、グラフが x 軸と交わる点(実数の根)はあっても、候補はすべて赤なので有理数の根がなく、既約。x³−3x+2 と 2x³−3x²+1 は候補の中に根があり、既約でない
ねこ博士
その通り。最後に、整数と多項式の対応を整理しておこう。整数では、素数 p で割った余りの世界 mod p が体になった。多項式でも同じことが起きる。ℚ(∛2) の計算は、「多項式を x³−2 で割った余りで計算する」ことだったね。x³−2 が既約だから、互除法で逆数が作れて、余りの世界が体になったんだ。
  整数 多項式(係数は有理数) 割り算余り<割る数余りの次数<割る式の次数 互除法3×12−5×7=13=(x+1)(x²−x+1)−(x³−2) 単数±10 でない定数 分けられない素数 2, 3, 5, 7, …既約多項式 x²−2, x³−2, … 余りの世界mod px³−2 で割った余り それが体p が素数のとき既約多項式で割るとき
整数と多項式の対応。多項式の世界は、整数の世界とほとんど同じしくみで動いている。いちばん下の2行が今日の要点で、素数で割った余りの世界 mod p が体になるように、既約多項式 x³−2 で割った余りの世界(ℚ(∛2) の計算)も体になる
うさ美
ℚ(∛2) の数 a+b∛2+c∛4 は、3次式で割った余り a+bx+cx² のことで、mod p の数が 0 から p−1 までの余りだったのと同じなんですね。1/(1+∛2+∛4) なら、(x−1)(x²+x+1)=x³−1=(x³−2)+1 なので、x に ∛2 を入れて (∛2−1)(1+∛2+∛4)=1。答えは ∛2−1 です。
ねこ博士
そう。これで、数 α の次数を最小多項式から求められるようになった。次のステージでは、√ を何回も加えたときに次数がどうなるかを調べて、作図できる数の次数がどんな数になるのかを突き止めよう。
【このステージの成果】 多項式も余りのある割り算ができる:f=q×g+r(r の次数<g の次数)。x−r で割った余りは f(r) 互除法で 3=(x+1)(x²−x+1)−(x³−2) → 1/(1+∛2)=(∛4−∛2+1)/3 既約多項式は素数にあたる。2次・3次式は有理数の根がなければ既約(4次以上は別:x⁴+4 は分けられる) 有理数の根 p/q は、p が定数項の約数、q が最高次の係数の約数。x³−2、x³−3x−1 は既約 最小多項式:α を根にもつ次数最小の多項式。必ず既約。[ℚ(α):ℚ]=最小多項式の次数。[ℚ(∛2):ℚ]=3

確認クイズ

Q1. (x³−2)÷(x+1) の商と余りは?

Q2. 3次式 2x³−3x²+1 の有理数の根の候補として、有理根の判定で考えればよいものは?

Q3. ∛2 の次数([ℚ(∛2):ℚ])が 3 である理由は?