🔷 群・環・体からガロア理論へ
第3章 四則演算と作図 / STAGE 4 ― 次数の掛け算 ―
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第3章 STAGE 4

次数の掛け算

作図できる数の次数は 2 の累乗
🎯 ミッション
次数の積の法則 [L:K]=[L:M][M:K] を、基底を掛け合わせる方法で説明しよう。作図の1手で新しく出てくる座標が「√ を1つ加えた体」に入ることを示し、作図できる数の次数が 2 の累乗であることを証明できれば合格。
未達成
ねこ博士
いよいよ、作図できる数に共通する性質を突き止める。作図できない数を見分けるために、2つのことを示したい。1つは、「作図の1手で、体は次数 1 か 2 しかひろがらない」こと。もう1つは、「体を何段階かひろげたとき、全体の次数は各段の次数の掛け算になる」こと。2つ目から始めよう。STAGE2 で、ℚ(√2, √3) の基底を作ったね。どうやって作ったかな?
うさ美
ℚ(√2) の ℚ 上の基底は 1, √2 で、ℚ(√2, √3) の ℚ(√2) 上の基底は 1, √3 でした。この2組から1つずつ選んで掛け合わせた 1, √2, √3, √6 が、ℚ(√2, √3) の ℚ 上の基底になりました。2×2=4 です。
ねこ博士
そう。これがいつでも成り立つことを示そう。体が K ⊂ M ⊂ L と3段に重なっているとする。M の K 上の基底を u₁, …, uₘ(m 個)、L の M 上の基底を v₁, …, vₙ(n 個)とする。u と v を1つずつ掛けた m×n 個の数 uᵢvⱼ が、L の K 上の基底になることを確かめたい。まず、L のどの数も「K の数×uᵢvⱼ」の和で書けることを示してごらん。
うさ美
L の数 z は、M の数 y₁, …, yₙ を使って z=y₁v₁+…+yₙvₙ と書けます。それぞれの yⱼ は M の数なので、K の数を係数にして yⱼ=x₁ⱼu₁+…+xₘⱼuₘ と書けます。これを代入して展開すると、z は「K の数 xᵢⱼ ×uᵢvⱼ」を全部足した形になります。m×n 個の uᵢvⱼ があれば、L のどの数も書けます。
ねこ博士
その通り。次は「ただ1通り」だ。STAGE2 と同じように、全部足して 0 になるなら係数 xᵢⱼ がすべて 0 になる、を示せばいい。足し算の順番を工夫してごらん。
うさ美
同じ vⱼ を含む項をまとめると、0=(x₁₁u₁+…+xₘ₁uₘ)v₁+…+(x₁ₙu₁+…+xₘₙuₘ)vₙ です。かっこの中は M の数で、v₁, …, vₙ は L の M 上の基底なので、0 の書き方はかっこの中が全部 0 の1通りだけです。すると、x₁ⱼu₁+…+xₘⱼuₘ=0 で、u₁, …, uₘ は M の K 上の基底なので、x₁ⱼ=…=xₘⱼ=0。係数はすべて 0 です。だから uᵢvⱼ は基底で、[L:K]=m×n です。
次数の積の法則:K ⊂ M ⊂ L のとき [L:K]=[L:M]×[M:K] M の K 上の基底 u₁, …, uₘ、L の M 上の基底 v₁, …, vₙ → 積 uᵢvⱼ(m×n 個)が L の K 上の基底 書ける:z=Σ yⱼvⱼ、yⱼ=Σ xᵢⱼuᵢ を代入して z=Σ xᵢⱼuᵢvⱼ(Σ は「全部足す」の意味) ただ1通り:Σ xᵢⱼuᵢvⱼ=0 を vⱼ ごとにまとめ、まず v の基底から「かっこの中=0」、次に u の基底から「xᵢⱼ=0」 例:[ℚ(√2, √3):ℚ]=[ℚ(√2, √3):ℚ(√2)]×[ℚ(√2):ℚ]=2×2=4
ねこ博士
よし。式の中の Σ は「全部足す」という記号で、ここでは書き方を短くするためだけに使った。この法則を使うと、√ を次々に加えていったときの次数がすぐに分かる。√ を1つ加えるたびに、次数はどう変わるかな?
うさ美
体 K に √d(d は K の数で、√d は K に入らない)を加えると、STAGE2 の √2 と同じように、K(√d) の数は x+y√d とただ1通りに書けるので、[K(√d):K]=2 です。√d がもともと K に入っていれば、何も変わらず次数は 1。だから、√ を1つ加えるたびに、全体の次数は 2 倍になるか、そのままです。
√ を加えて体をひろげる。ボタンで √ を1つずつ加えると、加えた順に体の塔が積み上がり、いちばん上の体の ℚ 上の基底(数の組)が並ぶ。すでに入っている √ を加えたときは次数が変わらない(たとえば √2 と √3 のあとの √6=√2×√3)。新しい √ を加えると基底は2倍になり、全体の次数はいつも 1, 2, 4, 8, … のどれかになる
ねこ博士
そう。では1つ目の、作図の1手で何が起きるかを調べよう。はじめにある点は (0, 0) と (1, 0) で、座標は有理数だ。いま、ここまでに作った点の座標が、すべてある体 K(実数の中の体)に入っているとしよう。K の点を2つ通る直線の式は ax+by=c、K の点を中心にして K の点を通る円の式は (x−p)²+(y−q)²=r² と書けて、a, b, c, p, q, r² はどれも K の数になる。まず、2本の直線の交点の座標はどんな数かな?
うさ美
ax+by=c と a′x+b′y=c′ の連立方程式を解くことになります。中学の加減法や代入法は、足し算・引き算・掛け算・割り算しか使わないので、答えの x, y は K の数です。新しい数は出てきません。
ねこ博士
その通り。では、直線と円の交点は?
うさ美
直線の式を y=(c−ax)/b のように変形して(b=0 なら x=c/a として)円の式に代入すると、x の2次方程式 Ax²+Bx+C=0 ができて、A, B, C は K の数です。解の公式で x=(−B±√(B²−4AC))/(2A) となるので、x は K に √D(D=B²−4AC は K の数)を1つ加えた体 K(√D) に入ります。y も直線の式から四則で求まるので K(√D) の数です。
ねこ博士
そう。最後に、2つの円の交点は?
うさ美
x²+y²+…=… の形の式が2つあるので、引き算すると x² と y² が消えて、1次式 ax+by=c が残ります。2つの円の交点は、この直線ともとの円の交点と同じです。だから、さっきと同じで K(√D) に入ります。
直線 × 直線:連立1次方程式 → 四則だけで解ける → 交点の座標は K の数 直線 × 円:代入すると2次方程式 Ax²+Bx+C=0(A, B, C は K の数)
x=(−B±√D)/(2A)、D=B²−4AC → 交点の座標は K(√D) の数
円 × 円:2つの式を引くと x²+y² が消えて直線の式になる → 直線 × 円と同じ つまり作図の1手ごとに、座標の入る体は K → K(√D):次数は 1 倍か 2 倍
直線 × 直線四則だけ(K のまま) 直線 × 円2次方程式(√ が1つ) 円 × 円引くと直線(√ が1つ)
交点の3つの場合。左:2直線の交点は連立1次方程式で求まり、新しい √ は出ない。中央:直線と円の交点は2次方程式の解なので、√ が1つだけ出る。右:2円の交点は、2つの円の式を引いてできる直線(点線)ともとの円の交点と同じ
ねこ博士
よく分かったね。点を1つ作るたびに、その点の座標が入るように体を1段ずつひろげていくと、ℚ=K₀ ⊂ K₁ ⊂ K₂ ⊂ … ⊂ Kₙ という体の塔ができて、各段の次数は 1 か 2 になる。どれだけ複雑な作図でも、交点を1つずつ作っていくのだから、作った点の座標はすべていちばん上の Kₙ に入る。Kₙ の ℚ 上の次数はどうなるかな?
うさ美
次数の積の法則で、[Kₙ:ℚ]=[Kₙ:Kₙ₋₁]×…×[K₁:K₀] です。どの段も 1 か 2 なので、全体は 2 を何回か掛けた数、つまり 2 の累乗です。
ねこ博士
そう。最後の一歩だ。作図できる数 α は Kₙ に入っているから、ℚ ⊂ ℚ(α) ⊂ Kₙ と並ぶ。Kₙ を ℚ(α) をひろげた体と見ても、基底はとれる(ℚ 上の基底から、むだなものを取り除いていけばいい)。α の次数について何が言えるかな?
うさ美
積の法則で [Kₙ:ℚ]=[Kₙ:ℚ(α)]×[ℚ(α):ℚ] なので、[ℚ(α):ℚ] は [Kₙ:ℚ]=2ᵐ を割り切ります。2ᵐ の約数は、素因数分解がただ1通りなので 1, 2, 4, …, 2ᵐ だけです。STAGE3 で、[ℚ(α):ℚ] は α の最小多項式の次数でした。だから、作図できる数の最小多項式の次数は、必ず 2 の累乗です!
作図できる数の判定法定規とコンパスで作図できる数 α は、√ を1つずつ加えた体の塔 ℚ=K₀ ⊂ K₁ ⊂ … ⊂ Kₙ(各段の次数は 1 か 2)のどこかに入る。だから
α が作図できる ⇒ α の次数(最小多項式の次数)は 1, 2, 4, 8, … のどれか
言いかえると、次数が 3 や 5 や 6 の数は、どう工夫しても作図できない。
ねこ博士
これで、STAGE1 で約束したことも確かめられた。作図で出てくる座標は、ℚ から四則と √ を1つずつ加えていった体に入る。つまり、作図できる数は ℚ から四則と √ で作れる数とぴったり同じなんだ。実際に、点を増やしてみよう。(0, 0) と (1, 0) の2点から1手目で、2点を通る直線を1本、2つの円をかく。どんな点ができるかな?
うさ美
直線は x 軸です。(0, 0) を中心に (1, 0) を通る円と x 軸の交点は (−1, 0)、(1, 0) を中心に (0, 0) を通る円と x 軸の交点は (2, 0)。2つの円の交点は、x²+y²=1 と (x−1)²+y²=1 を引いて 2x−1=0、x=1/2、y²=3/4 なので (1/2, ±√3/2)。新しい点は4つで、合わせて6点です。2つの円の交点で √3 が1つ出てきました。
作図できる点が増えていく様子。今ある点のすべての組について、2点を通る直線と、一方を中心に他方を通る円を引き(薄い線)、すべての交点を新しい点にする。これを1回行うと点は 2 個 → 6 個、2回で 203 個になる(そのうち枠の中に入るものを表示)。点はどんどん増えるが、どの点の座標も、√ を次々に加えた体の中にある
ねこ博士
そう。3回目まで続けると、点の数は 17 億個を超えることが計算機で確かめられている。それでも、どの点の座標も、√ を1つずつ加えた体の数で、次数は 2 の累乗だ。ただし注意しておくと、次数が 2 の累乗なら必ず作図できる、とまでは言えない。次数が 4 なのに作図できない数もあって、それを見分けるには第4章のガロア理論が必要になる。でも、「できない」ことを示すには、今日の判定法だけで十分なんだ。
うさ美
STAGE3 で、∛2 の最小多項式は x³−2 で、次数は 3 でした。3 は 2 の累乗ではありません。ということは、体積 2 の立方体の辺 ∛2 は、作図できないということですか?
ねこ博士
その通り。2000年以上の謎が、もう手の届くところにある。次のステージで、立方体倍積と角の三等分に決着をつけよう。
【このステージの成果】 次数の積の法則:[L:K]=[L:M]×[M:K]。基底どうしを掛け合わせた uᵢvⱼ が L の K 上の基底になる √ を1つ加えると、次数は 2 倍(√ が新しいとき)か 1 倍(もともと入っているとき) 作図の1手:直線×直線は四則だけ、直線×円は2次方程式、円×円は引くと直線×円 → 座標は K(√D) に入る 作図できる点の座標は体の塔 ℚ=K₀ ⊂ … ⊂ Kₙ(各段の次数 1 か 2)に入る → [Kₙ:ℚ] は 2 の累乗 作図できる数の次数(最小多項式の次数)は 2 の累乗。∛2 は次数 3 なので作図できない

確認クイズ

Q1. K ⊂ M ⊂ L で [M:K]=2、[L:M]=3 のとき、[L:K] は?

Q2. 直線と円の交点の座標が、K に √ を1つ加えた体 K(√D) に入る理由は?

Q3. 定規とコンパスで作図できる数 α の次数(最小多項式の次数)としてありえるものは?