第3章 STAGE 5
解けない作図
立方体倍積と角の三等分
🎯 ミッション
立方体倍積が ∛2(次数 3)の作図であることから不可能を示そう。3倍角の公式 cos 3θ=4cos³θ−3cos θ を複素数の3乗から導き、cos 20° が既約な3次方程式の根であることから 60° の三等分が不可能であること、90° の三等分は可能であることを説明できれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、作図できる数の次数は必ず 2 の累乗だと分かった。いよいよ、ギリシャの作図問題に決着をつけよう。まずは立方体倍積だ。古代ギリシャには、疫病を鎮めるために「デロス島のアポロンの祭壇(立方体)を2倍の大きさにせよ」というお告げが下った、という言い伝えがあって、「デロスの問題」とも呼ばれる。1辺 1 の立方体の、ちょうど2倍の体積をもつ立方体の1辺を作図できるかな?

うさ美
1辺 x の立方体の体積は x³ なので、x³=2、x=∛2 です。∛2 の最小多項式は x³−2 で、STAGE3 で既約だと確かめたので、∛2 の次数は 3 です。3 は 2 の累乗ではないので、前のステージの判定法から、∛2 は作図できません。立方体倍積は不可能です。
立方体倍積(デロスの問題)。体積を2倍にするには、1辺を ∛2≒1.2599 倍にすればいい。∛2 の最小多項式は既約な3次式 x³−2 なので次数は 3。2 の累乗ではないから、定規とコンパスでは作図できない

ねこ博士
その通り。これが1837年にヴァンツェルが示したことだ。2000年以上の問題が、次数の計算だけで片づいた。次は角の三等分だ。まず、三等分できる角もあることを確かめておこう。90° の三等分はできるかな?

うさ美
90° を三等分すると 30° です。正三角形をかけば 60° が作れて、それを二等分すれば 30° です。だから 90° は三等分できます。数で言えば、半径 1 の円の上の 30° の点の横の座標は cos 30°=√3/2 で、次数 2 です。

ねこ博士
そう。だから「角の三等分は不可能」というのは、「どんな角でも三等分できる方法はない」という意味だ。それを示すには、三等分できない角を1つ見せればいい。60° の三等分、つまり 20° の角が作れるかを調べよう。半径 1 の円の上に 20° の方向の点を作ることは、その横の座標 cos 20° を作ることと同じだった。cos 20° がみたす方程式を作りたい。手がかりは、cos 3θ を cos θ で表す式だ。複素数の掛け算は「長さを掛けて、角度を足す」だったね。それを使って (cos θ+i sin θ)³ を2通りに計算してごらん。

うさ美
cos θ+i sin θ は長さ 1、角度 θ の複素数なので、3乗すると長さ 1、角度 3θ で、cos 3θ+i sin 3θ になります。一方、c=cos θ、s=sin θ として展開すると、(c+is)³=c³+3c²(is)+3c(is)²+(is)³=c³+3c²s i−3cs²−s³ i です。実部を比べると、cos 3θ=c³−3cs²。三平方の定理から s²=1−c² なので、cos 3θ=c³−3c(1−c²)=4c³−3c です!
(cos θ+i sin θ)³=cos 3θ+i sin 3θ(長さ 1 のまま、角度が3倍になる)
展開:(c+is)³=c³+3c²(is)+3c(is)²+(is)³
=(c³−3cs²)+(3c²s−s³)i(i²=−1、i³=−i) 実部を比べる:cos 3θ=c³−3cs² s²=1−c² を入れる:cos 3θ=c³−3c(1−c²)=4c³−3c(3倍角の公式)
=(c³−3cs²)+(3c²s−s³)i(i²=−1、i³=−i) 実部を比べる:cos 3θ=c³−3cs² s²=1−c² を入れる:cos 3θ=c³−3c(1−c²)=4c³−3c(3倍角の公式)
3乗は角度を3倍にする回転。z=cos θ+i sin θ(紫)を2乗、3乗すると、長さ 1 のまま角度が 2θ, 3θ になる(z³ は赤)。z³ の横の座標が cos 3θ で、それが 4cos³θ−3cos θ と一致することを数値で確かめられる。θ=20° のとき z³ は 60° の点で、cos 60°=1/2

ねこ博士
よく導けたね。公式は、知っている角で確かめておくと安心だ。θ=30° で両辺を計算してごらん。

うさ美
左辺は cos 90°=0 です。右辺は cos 30°=√3/2 なので、4×(√3/2)³−3×(√3/2)=4×(3√3/8)−3√3/2=3√3/2−3√3/2=0。両辺とも 0 で合っています。

ねこ博士
そう。では θ=20° を入れてみよう。cos 60°=1/2 だから、x=cos 20° はどんな方程式をみたすかな?

うさ美
4x³−3x=1/2 なので、両辺を 2 倍して 8x³−6x−1=0 です。有理根の判定をすると、候補は ±1, ±1/2, ±1/4, ±1/8 の8つです。……もっと簡単にするには、y=2x とおくと 8x³=y³、6x=3y なので、y³−3y−1=0。こちらの候補は ±1 だけで、1−3−1=−3、−1+3−1=1 とどちらも 0 にならないので、既約です。

ねこ博士
そう。y=2cos 20° と x=cos 20° は、2 を掛けたり割ったりするだけで行き来できるから、ℚ(x)=ℚ(y) で、次数は同じだ。結論はどうなるかな?

うさ美
2cos 20° の最小多項式は既約な3次式 y³−3y−1 なので、次数は 3。cos 20° の次数も 3 です。2 の累乗ではないので、cos 20° は作図できません。だから 60° の角は、定規とコンパスでは三等分できません。二等分や交点をどれだけ重ねても 20° に届かなかったのは、工夫が足りなかったからではなかったんですね。
cos 20° がみたす3次方程式。グラフは x 軸と3点(緑)で交わり、それぞれ cos 20°, cos 140°, cos 260°(2 倍した式では 2cos 20° など)。赤い点は有理数の根の候補で、どれも根ではない。だから式は既約で、cos 20° の次数は 3

ねこ博士
いいところに気づいたね。この方程式には根が3つあって、cos 20° のほかに cos 140° と cos 260° も根だ。3倍すると 420° と 780° で、どちらも 360° の倍数を引けば 60° になるからね。方程式からは、この3つを区別できない。では、90° の三等分がうまくいく理由を、同じ方法で確かめてごらん。

うさ美
cos 90°=0 なので、x=cos 30° は 4x³−3x=0、つまり x(4x²−3)=0 をみたします。この3次式は x で割り切れるので、既約ではありません。cos 30° は 0 ではないので 4x²−3=0 の根で、x=√3/2。最小多項式は x²−3/4 で、次数は 2 です。3次式が分けられるかどうかで、三等分できるかどうかが決まるんですね。
| 三等分する角 3θ | cos 3θ | x=cos θ の方程式 | 分けられるか | 三等分 |
|---|---|---|---|---|
| 90° | 0 | 4x³−3x=0 | x(4x²−3) | できる(30°) |
| 180° | −1 | 4x³−3x+1=0 | (x+1)(2x−1)² | できる(60°) |
| 60° | 1/2 | 8x³−6x−1=0 | 既約 | できない(20°) |
| 120° | −1/2 | 8x³−6x+1=0 | 既約 | できない(40°) |
角の三等分ができるかどうか。3倍角の公式 4x³−3x=cos 3θ を、三等分したい角ごとに書いた。3次式が有理数の係数で分けられれば cos θ の次数は 2 以下で三等分できる。既約なら次数 3 で、三等分できない。120° のときは y=2x とおくと y³−3y+1=0 になり、候補 ±1 はどちらも根でない

ねこ博士
その通り。最後に円積問題だ。半径 1 の円の面積は π だから、同じ面積の正方形の1辺は √π になる。√π が作図できれば、それを2乗した π も作図できるはずだね。

うさ美
π が作図できるなら、π の次数は 2 の累乗のはずです。でも、π の最小多項式なんて見当がつきません。π は有理数ではないと聞いたことがありますが、そもそも π を根にもつ多項式はあるんですか?

ねこ博士
それが答えなんだ。1882年に、ドイツのリンデマンが「π は、有理数を係数とするどんな多項式の根にもならない」ことを証明した。こういう数を超越数(ちょうえつすう)という。最小多項式がないのだから、次数が 2 の累乗の体の塔のどこにも入らない。だから √π も π も作図できず、円積問題も不可能だ。この証明は高度なので、ここでは事実として受け取っておこう。こうして、ギリシャの3つの作図問題は、1837年と1882年に、すべて「不可能」という答えで決着したんだ。
ギリシャの3大作図問題の答え・立方体倍積:∛2 の最小多項式 x³−2 は既約 → 次数 3 → 不可能(ヴァンツェル、1837年)
・角の三等分:cos 20° は既約な 8x³−6x−1 の根 → 次数 3 → 60° は三等分できない(ヴァンツェル、1837年)。90° や 180° のように三等分できる角もある
・円積問題:π は超越数(どんな有理数係数の多項式の根でもない)→ 不可能(リンデマン、1882年)
・角の三等分:cos 20° は既約な 8x³−6x−1 の根 → 次数 3 → 60° は三等分できない(ヴァンツェル、1837年)。90° や 180° のように三等分できる角もある
・円積問題:π は超越数(どんな有理数係数の多項式の根でもない)→ 不可能(リンデマン、1882年)

うさ美
「できない」と言っても、ギリシャの人たちが下手だったわけではなく、定規とコンパスでは2次方程式までしか解けない、ということなんですね。道具を変えれば、3次方程式の根も作れるかもしれません。

ねこ博士
そう。実際、アルキメデスは、定規に2つの印をつけて動かす方法で、どんな角でも三等分できることを知っていた。印のついた定規は、約束の外の道具だから、矛盾はしない。大事なのは、決められた道具で何ができて何ができないかを、数の世界の大きさとしてきちんと言えるようになったことだ。次のステージでは、同じ道具で、どの正多角形が作図できるかを調べよう。ガウスが19歳を前にして見つけた、正17角形の話も出てくる。

うさ美
正多角形も、中心角の cos が作図できるかどうかで決まるはずです。正5角形なら cos 72° の次数を調べればいい、ということですか?

ねこ博士
その通り。cos 72° がどんな方程式をみたすか、複素数を使って見つけるところから始めよう。
【このステージの成果】
立方体倍積:1辺 ∛2 の作図。∛2 の次数は 3 → 2 の累乗でない → 不可能
3倍角の公式 cos 3θ=4cos³θ−3cos θ は、(cos θ+i sin θ)³=cos 3θ+i sin 3θ を展開して実部を比べて得られる
cos 20° は 8x³−6x−1=0(y=2x で y³−3y−1=0)の根。有理数の根がなく既約 → 次数 3 → 60° は三等分できない
90° の三等分は可能:4x³−3x=0 は x(4x²−3) と分けられ、cos 30°=√3/2 は次数 2
円積問題:π は超越数(リンデマン、1882年)なので不可能。3大作図問題はすべて「不可能」で決着
確認クイズ
Q1. cos 20° がみたす方程式は?
正解! 3倍角の公式 cos 3θ=4cos³θ−3cos θ に θ=20° を入れると 1/2=4x³−3x。2倍して 8x³−6x−1=0。4x²−3=0 は cos 30° の方程式。
Q2. 3倍角の公式 cos 3θ=4cos³θ−3cos θ を導くのに使ったことは?
正解! 複素数の掛け算は角度を足すので、3乗で角度が3倍。展開した実部 c³−3cs² に s²=1−c² を入れると 4c³−3c。
Q3. 90° の角は三等分できるのに、60° の角は三等分できない理由は?
正解! 作図できる数の次数は 2 の累乗。cos 30°=√3/2 は次数 2 で作図でき、cos 20° は次数 3 で作図できない。