第4章 STAGE 2
解を入れ替える
対称式と判別式
🎯 ミッション
対称式が係数で書ける理由を説明し、α−β が入れ替えで符号だけ変わることから2次方程式の解の公式を作り直そう。3次方程式で (α−β)(β−γ)(γ−α) を保つ入れ替えがどれかを言えれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、係数は解を入れ替えても変わらない式 α+β, αβ で書けると分かった。今日はこれを逆から使う。入れ替えで変わらない式は、解を知らなくても係数から計算できる。この事実と、入れ替えで「少しだけ」変わる式を組み合わせると、解の公式が作れるんだ。3次方程式を解くための作戦の土台になる。まず、解 α, β をどう入れ替えても変わらない式を対称式と呼ぶ。α+β と αβ は対称式だね。α²+β² を α+β と αβ で書いてごらん。

うさ美
(α+β)²=α²+2αβ+β² なので、α²+β²=(α+β)²−2αβ です。たとえば x²−4x+1=0 なら、α+β=4, αβ=1 なので、α²+β²=16−2=14。解を求めなくても計算できました。

ねこ博士
そう。α³+β³ や 1/α+1/β ではどうかな?

うさ美
(α+β)³=α³+3α²β+3αβ²+β³=α³+β³+3αβ(α+β) なので、α³+β³=(α+β)³−3αβ(α+β)=64−12=52 です。1/α+1/β は通分して (α+β)/(αβ)=4 です。どれも α+β と αβ だけで書けますね。いつでもそうなるんですか?

ねこ博士
いい質問だね。2つの解のときは、全部確かめられる。対称式を項ごとに見ると、α⁵β² があれば、入れ替えた α²β⁵ も同じ係数で入っているはずだ。この2つの組は (αβ)²(α³+β³) とまとめられる。だから、αⁿ+βⁿ がどれも α+β と αβ で書ければいい。(α+β)(αⁿ⁻¹+βⁿ⁻¹) を展開してごらん。

うさ美
(α+β)(αⁿ⁻¹+βⁿ⁻¹)=αⁿ+αβⁿ⁻¹+βαⁿ⁻¹+βⁿ=(αⁿ+βⁿ)+αβ(αⁿ⁻²+βⁿ⁻²) です。だから αⁿ+βⁿ=(α+β)(αⁿ⁻¹+βⁿ⁻¹)−αβ(αⁿ⁻²+βⁿ⁻²)。1つ前と2つ前から次が決まるので、α¹+β¹=α+β と α⁰+β⁰=2 から順に、全部 α+β と αβ で書けます。
対称式:解をどう入れ替えても変わらない式
入れ替えた項が同じ係数でそろうので、αmβk+αkβm=(αβ)k(αm−k+βm−k) の形の和になる、ただし m>k
αⁿ+βⁿ=(α+β)(αⁿ⁻¹+βⁿ⁻¹)−αβ(αⁿ⁻²+βⁿ⁻²)(1つ前と2つ前から決まる)
α²+β²=(α+β)²−2αβ、α³+β³=(α+β)³−3αβ(α+β)
だから対称式は、α+β と αβ、つまり係数だけで書ける

ねこ博士
その通り。解が3つ以上でも同じことが成り立つ。どんな対称式も、解と係数の関係に出てくる式の足し算・引き算・掛け算で書ける。これを対称式の基本定理という。では、対称式でない式はどうなるか。α−β で、α と β を入れ替えてごらん。

うさ美
β−α になるので、−(α−β) です。符号だけ変わります。そうすると、2乗した (α−β)² は入れ替えで変わらないので対称式です。(α−β)²=(α+β)²−4αβ。ax²+bx+c=0 なら α+β=−b/a、αβ=c/a を入れて、b²/a²−4c/a=(b²−4ac)/a² になります。

ねこ博士
そう。分子の D=b²−4ac を判別式という。D は (α−β)² を係数で書いたもの(の a² 倍)なんだ。ここまでで、解の公式を作る材料がそろった。α+β は係数で分かる。α−β は、2乗すれば係数で分かる。α を求めてごらん。

うさ美
(α−β)²=D/a² なので、√ を取って α−β=√D/a とします(−√D/a を選んでも、α と β の名前が入れ替わるだけです)。α=((α+β)+(α−β))/2=(−b/a+√D/a)/2=(−b+√D)/(2a)、β=((α+β)−(α−β))/2=(−b−√D)/(2a)。前のステージの公式と同じになりました。
① 対称式は係数で分かる:α+β=−b/a
② 入れ替えで符号だけ変わる式 α−β は、2乗すると対称式:(α−β)²=(b²−4ac)/a²
③ √ を1回とる:α−β=√(b²−4ac)/a
④ α=((α+β)+(α−β))/2=(−b+√(b²−4ac))/(2a)(和と差から α を取り出す)

ねこ博士
この手順を「入れ替え」の言葉で言い直そう。最初、係数から分かるのは、対称式、つまり「何もしない」と「α と β の入れ替え」の2つの操作の両方で変わらない式だけだった。√D を1つ使えるようにすると、α−β が分かる。α−β を変えない操作は「何もしない」の1つだけだ。√ を1回とるたびに、式を変えない入れ替えの数が減っていく。それが解に近づくということなんだ。入れ替えで値がどう変わるか、表で確かめよう。
x²−4x+1=0 の2つの解の入れ替え。2つの解は 2+√3 と 2−√3。入れ替えボタンを押すと、α と β の値が交換され、値の変わった式が赤くなる。対称式(α+β, αβ, α²+β², (α−β)²)は変わらず、α−β は符号だけが変わる

うさ美
2つの解では、√ を1回とるだけで、2つの操作が1つに減って終わりなんですね。3つの解なら、入れ替えはもっとたくさんあります。

ねこ博士
そう。3次方程式で同じことを考えよう。まず解と係数の関係からだ。x³+ax²+bx+c=0 の3つの解を α, β, γ とすると、左辺は (x−α)(x−β)(x−γ) と因数分解できる。展開してごらん。

うさ美
(x−α)(x−β)=x²−(α+β)x+αβ に (x−γ) を掛けて、x³−(α+β+γ)x²+(αβ+βγ+γα)x−αβγ です。係数を比べると、α+β+γ=−a、αβ+βγ+γα=b、αβγ=−c になります。3つとも、α, β, γ をどう入れ替えても変わりません。

ねこ博士
その通り。3つの解の入れ替えは何通りあるかな? 第1章を思い出してごらん。

うさ美
3つのものの並べ替えは 3×2×1=6 通りで、第1章の正三角形の6つの操作と同じです。巡回の記法で書くと、何もしない e、回す (α β γ) と (α γ β)、2つだけの入れ替え(互換)(α β), (β γ), (α γ) です。

ねこ博士
そう。(α β γ) は「α を β に、β を γ に、γ を α に付け替える」入れ替えだったね。では、2次方程式の α−β にあたる式を探そう。Δ=(α−β)(β−γ)(γ−α)(Δ はデルタと読む)に、(α β) と (α β γ) をしてごらん。

うさ美
(α β) をすると、(β−α)(α−γ)(γ−β) です。β−α=−(α−β)、α−γ=−(γ−α)、γ−β=−(β−γ) なので、マイナスが3つ出て −Δ になります。(α β γ) をすると (β−γ)(γ−α)(α−β) で、掛ける順番が変わっただけなので Δ のままです。

ねこ博士
残りの4つも同じように調べると、Δ を変えないのは e, (α β γ), (α γ β) の3つ、符号を変えるのは3つの互換だと分かる。6つの入れ替えで、いろいろな式がどんな値をとるか、実際の方程式で確かめてみよう。
x³−7x+6=0 の3つの解の入れ替え。3つの解は 1, 2, −3(x³−7x+6=(x−1)(x−2)(x+3))で、最初は α=1, β=2, γ=−3。入れ替えを選ぶと、その入れ替えをしたあとの各式の値を示す。右の列は、6つの入れ替えで各式がとる値の種類の数。対称式は 1 種類、Δ は ±20 の 2 種類、α は 3 種類になる

うさ美
Δ を保つのが e と2つの回転で、符号を変えるのが互換というのは、第1章で学んだ偶置換・奇置換の分かれ方と同じです。互換は奇置換で、回転 (α β γ) は、(β γ) のあとに (α β) をしたもの、つまり (β γ)(α β) と互換2つの積なので偶置換です。

ねこ博士
よく思い出したね。Δ は、入れ替えが偶置換なら変わらず、奇置換なら符号が変わる。だから Δ² は対称式で、係数で書ける。x³+px+q=0 の形なら、計算すると Δ²=−4p³−27q² になる。これが3次方程式の判別式だ。x³−7x+6 で確かめてごらん。

うさ美
p=−7, q=6 なので、−4×(−343)−27×36=1372−972=400 です。Δ=(1−2)(2−(−3))(−3−1)=(−1)×5×(−4)=20 で、20²=400。合っています。

ねこ博士
そう。Δ² が係数で分かるから、√ を1回とれば Δ が手に入る。そのとき、式を変えない入れ替えは6つから偶置換の3つに減る。ちょうど半分になるのは偶然ではない。Δ を保つ入れ替えの集まりは部分群で、符号を変える入れ替えの集まりは、それを1つの互換でずらしたコピーになっている。第1章の剰余類の話だね。
√ を1回とると、式を変えない入れ替えが半分になる。左の箱は係数だけで分かる段階(対称式を変えない入れ替え)、右の箱は √ を1回とった段階(新しく分かった式を変えない入れ替え)。2次方程式は1つになって解ける。3次方程式は3つ残る

うさ美
2次方程式は √ 1回で2つから1つになって解けました。でも3次方程式は、√ で6つが3つになったあと、3つが残っています。3つは半分に分けられないので、もう一度 √ をとっても減らないということですか?

ねこ博士
いいところに気づいたね。第1章のラグランジュの定理で言えば、3個の群の部分群は、個数が 3 を割り切るので、1個か3個しかない。半分にはならないんだ。3つを一気に1つに減らすには、√ ではなく∛が必要になる。次のステージで、3次方程式を実際に解きながら、そのしくみを見よう。
【このステージの成果】
対称式:解をどう入れ替えても変わらない式。αⁿ+βⁿ=(α+β)(αⁿ⁻¹+βⁿ⁻¹)−αβ(αⁿ⁻²+βⁿ⁻²) などで、係数だけで書ける(対称式の基本定理)
α−β は入れ替えで符号だけ変わる。(α−β)²=(b²−4ac)/a² は対称式で、分子が判別式 D
解の公式=①対称式 α+β を係数で ②(α−β)² を係数で ③√ を1回とって α−β ④和と差から α。√ をとると、式を変えない入れ替えが 2 つから 1 つに減る
3次の解と係数の関係:α+β+γ=−a、αβ+βγ+γα=b、αβγ=−c(x³+ax²+bx+c=0)
Δ=(α−β)(β−γ)(γ−α) は偶置換で不変、奇置換(互換)で符号が変わる。x³+px+q=0 では Δ²=−4p³−27q²。√(Δ²) で 6 つが 3 つに減るが、まだ解けない
確認クイズ
Q1. x²−4x+1=0 の2つの解 α, β について、α³+β³ の値は?
正解! α+β=4, αβ=1。α³+β³=(α+β)³−3αβ(α+β)=64−12=52。解を求めなくても係数から計算できる。
Q2. 2次方程式の解の公式で √ が1回だけで済む理由は?
正解! (α−β)²=(b²−4ac)/a² は係数で書ける。√ をとって α−β が分かれば、α+β と組み合わせて α=((α+β)+(α−β))/2。
Q3. 3次方程式で Δ=(α−β)(β−γ)(γ−α) を変えない入れ替えは?
正解! 互換をすると、3つのかっこのうち符号が変わるものが奇数個出て −Δ になる。回転はかっこの順番が変わるだけ。Δ は偶置換で不変、奇置換で符号が変わる。