第4章 STAGE 3
3次方程式を解く
ω と ∛ で残りの対称性を崩す
🎯 ミッション
u=α+ωβ+ω²γ の3乗が、解の6通りの入れ替えで u³ と v³ の2つの値しかとらないことを確かめ、そこからカルダノの公式を導こう。x³−15x−4=0 の解 4 を公式から出せれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、3次方程式では √ を1回とっても、式を変えない入れ替えが6つから3つに減るだけだと分かった。残りの3つを1つに減らすには ∛ が要る。今日はその道具を作って、3次方程式の解の公式を自分の手で導く。1770年にラグランジュが見つけたこの見方は、のちに5次方程式でなぜ同じことができないのかを考える出発点になったんだ。まず準備をしよう。x³+ax²+bx+c=0 は、x=y−a/3 とおくと、y² の項が消える。確かめてごらん。

うさ美
(y−a/3)³=y³−ay²+(a²/3)y−a³/27 です。ax² のほうは a(y−a/3)²=ay²−(2a²/3)y+a³/9 なので、y² の係数は −a+a=0。たしかに消えます。だから、y³+py+q=0 の形だけ考えればいいんですね。解と係数の関係は α+β+γ=0、αβ+βγ+γα=p、αβγ=−q です。

ねこ博士
そう。次に、1 の3乗根を用意する。3乗すると 1 になる複素数のうち、1 でないものを ω(オメガ)と書く。どんな数か、複素数の掛け算から考えてごらん。

うさ美
『本当はおもしろい複素数の世界』で、複素数の掛け算は「長さを掛けて、角度を足す」と学びました。3乗して 1 になるには、長さが 1 で、角度を3倍すると 360° の倍数になればいいので、角度は 120° か 240° です。ω=cos 120°+i sin 120°=−1/2+(√3/2)i として、ω² は角度 240° の −1/2−(√3/2)i。足すと 1+ω+ω²=1−1/2−1/2+0i=0 です。
1 の3乗根。1, ω, ω² は単位円(半径 1 の円)の上で、正三角形の頂点に並ぶ。ω を掛けると 120° 回るので、1→ω→ω²→1 と順に移る。3つを足すと 0

ねこ博士
そう。1+ω+ω²=0 だから、ω は x²+x+1=0 の解で、2次方程式の公式から ω=(−1+√−3)/2 と √ だけで書ける。ここからがラグランジュのアイデアだ。3つの解を使ってu=α+ωβ+ω²γ という式を作る。これに回転 (α β γ)、つまり α を β に、β を γ に、γ を α に付け替える入れ替えをすると、どうなるかな?

うさ美
β+ωγ+ω²α になります。u と比べると、α の係数が 1 から ω² に、β の係数が ω から 1 に…。全部の係数に ω² を掛けたものです。ω²u=ω²α+ω³β+ω⁴γ=ω²α+β+ωγ なので、u は ω²u に変わります。u そのものは変わりますが、3乗すると (ω²u)³=ω⁶u³=u³ で、u³ は変わりません。

ねこ博士
その通り。では互換 (β γ) をすると? 出てくる式を v と呼ぼう。

うさ美
α+ωγ+ω²β、つまり v=α+ω²β+ωγ です。u とは別の式になりました。v に (α β γ) をしても、同じ計算で v は ωv に変わるだけなので、v³ は変わりません。だから6つの入れ替えで、u³ は u³ か v³ の2つの値にしか行きません。
u=α+ωβ+ω²γ、v=α+ω²β+ωγ
(α β γ) をすると:u → β+ωγ+ω²α=ω²u(ω³=1 を使う)、だから u³ → ω⁶u³=u³
(β γ) をすると:u → α+ωγ+ω²β=v、だから u³ → v³
6つの入れ替えで、u³ は u³ と v³ の2つの値の間を行き来するだけ

ねこ博士
6つの入れ替えで u と u³ がどう動くかを、実際の方程式で確かめてみよう。
方程式
入れ替え
u³ は2つの値の間を行き来する。左は3つの解(灰色の点)と、α, ωβ, ω²γ の3本の矢印をつないで u(赤の点)を作る様子。右は u³ の値(赤)と、もう1つの値 v³(青の丸)。入れ替えを選ぶと α, β, γ の名前が付け替わる。u は 120° ずつ回ったり別の点に移ったりするが、u³ は2つの点のどちらかにしか行かない

うさ美
偶置換のときは u³ のまま、互換のときは v³ に移りますね。u³ と v³ の組は、入れ替えでは組ごと変わらないということは、u³+v³ と u³v³ は対称式ですか?

ねこ博士
そう。だから係数で書ける。実際に計算しよう。まず uv を展開してごらん。α+β+γ=0 を使うといい。

うさ美
uv=(α+ωβ+ω²γ)(α+ω²β+ωγ) を展開すると、α²+β²+γ² の係数は 1, ω³, ω³ でどれも 1 です。αβ の係数は ω²+ω、βγ も ω²+ω、γα も ω+ω² で、どれも −1 です。だから uv=α²+β²+γ²−(αβ+βγ+γα)。α²+β²+γ²=(α+β+γ)²−2(αβ+βγ+γα)=−2p なので、uv=−2p−p=−3p です。

ねこ博士
その通り。次は u³+v³ だ。u+v を先に計算すると楽になるよ。

うさ美
u+v=2α+(ω+ω²)β+(ω²+ω)γ=2α−β−γ です。β+γ=−α なので u+v=3α。u³+v³=(u+v)³−3uv(u+v) は前のステージの式です。これに入れると、27α³−3×(−3p)×3α=27(α³+pα)。α は x³+px+q=0 の解なので α³+pα=−q で、u³+v³=−27q です。
uv=α²+β²+γ²−(αβ+βγ+γα)(ω³=1、ω+ω²=−1 を使って展開する)
=(α+β+γ)²−3(αβ+βγ+γα)=−3p
u+v=2α−(β+γ)=3α(β+γ=−α)
u³+v³=(u+v)³−3uv(u+v)=27α³+27pα=−27q(α³+pα=−q)
だから u³ と v³ は、2次方程式 t²+27qt−27p³=0 の2つの解(和が −27q、積が (−3p)³)

ねこ博士
u³ と v³ は、和と積が分かっている2つの数だ。もう解けるね。

うさ美
t²+27qt−27p³=0 を解の公式で解くと、t=(−27q±√(729q²+108p³))/2=27(−q/2±√(q²/4+p³/27)) です。u³ がこれなので、u=3∛(−q/2+√(q²/4+p³/27))、v=3∛(−q/2−√(q²/4+p³/27))。最後に α=(u+v)/3 なので、α=∛(−q/2+√(q²/4+p³/27))+∛(−q/2−√(q²/4+p³/27)) です。
カルダノの公式:x³+px+q=0 の解の1つは
α=∛(−q/2+√(q²/4+p³/27))+∛(−q/2−√(q²/4+p³/27))
残りの2つは、u+v=3α と同じように ω²u+ωv=3β、ωu+ω²v=3γ から求まる

うさ美
でも、∛ には3つの値があります。(ω×(何か))³ も同じ数になるので、∛(−q/2+√…) は3つのうちどれをとればいいんですか?

ねこ博士
いい質問だね。u のとり方は3つあるが、u を ωu に変えるのは、さっき見た通り α, β, γ の名前を回転させることにあたる。だから、どれを u に選んでも、3つの解が名前を変えて出てくるだけなんだ。ただし v は自由に選べない。uv=−3p をみたすように、u に合わせて決める。では、ボンベリが1572年に調べた方程式 x³−15x−4=0 に公式を使ってごらん。

うさ美
p=−15, q=−4 です。q²/4+p³/27=4−125=−121 なので、√−121=11i が出てきます。α=∛(2+11i)+∛(2−11i)。でも、x=4 を入れると 64−60−4=0 なので、4 は実数の解です。公式からは複素数が出てきて、どうやって 4 になるんですか?

ねこ博士
ボンベリは、2+11i が「きれいな数の3乗」になっていないかを考えた。(2+i)³ を計算してごらん。

うさ美
(2+i)³=8+3×4×i+3×2×i²+i³=8+12i−6−i=2+11i です。同じように (2−i)³=2−11i。(2+i)(2−i)=5 で、uv/9=−p/3=5 とも合っています。だから α=(2+i)+(2−i)=4。i が打ち消し合って、実数の解が出ました。
x³−15x−4=0:p=−15、q=−4、q²/4+p³/27=4−125=−121
α=∛(2+√−121)+∛(2−√−121)=∛(2+11i)+∛(2−11i)
(2+i)³=8+12i−6−i=2+11i(i²=−1、i³=−i)
α=(2+i)+(2−i)=4
β=ω²(2+i)+ω(2−i)=2(ω+ω²)+i(ω²−ω)=−2+√3、γ=−2−√3(ω²−ω=−√3 i)

ねこ博士
そう。3つの解はどれも実数なのに、公式は途中で負の数の √ を通る。この事実が、複素数が「計算の道具」として認められるきっかけになったんだ。さて、今日の解き方を入れ替えの数で振り返ろう。はじめ、係数から分かるのは対称式だけで、式を変えない入れ替えは6つあった。√(q²/4+p³/27) を使えるようにすると何が分かって、それを変えない入れ替えはいくつかな?

うさ美
u³=27(−q/2+√(q²/4+p³/27)) が分かります。u³ を変えないのは、u³ のままにする偶置換の3つです。そのあと ∛ をとって u が分かると、u を変えない入れ替えは、ω² 倍や ω 倍にする回転が使えなくなるので、e だけです。6→3→1 です。
3次方程式の解き方と、入れ替えの数。√ をとると、u³ を変えない偶置換の3つが残る。∛ をとると u が分かり、u を ω 倍する回転も使えなくなって、何もしない e だけが残る。√ は2つの組を1つに、∛ は3つの組を1つに絞る

うさ美
√ で「2つのうち1つ」、∛ で「3つのうち1つ」に絞っているんですね。4次方程式も、同じように √ と ∛ で少しずつ絞っていくんですか?

ねこ博士
そう。4次方程式の24通りの入れ替えも、√ と ∛ で段々に絞っていける。フェラーリの解法は、その途中で3次方程式を1つ解くんだ。では5次方程式の120通りの入れ替えはどうか。それを調べるには、まず「方程式にとって意味のある入れ替え」をきちんと定める必要がある。たとえば x³−15x−4 では、解の 4 は有理数だから、4 を別の解と入れ替えるのは不自然だね。次のステージでは、方程式ごとに決まる入れ替えの群、ガロア群を定義しよう。
【このステージの成果】
1 の3乗根 ω:長さ 1・角度 120° の複素数。ω³=1、1+ω+ω²=0、ω=(−1+√−3)/2
u=α+ωβ+ω²γ は回転で ω 倍・ω² 倍になり、互換で v=α+ω²β+ωγ に移る。u³ は u³ と v³ の2つの値しかとらない
uv=−3p、u+v=3α、u³+v³=−27q。u³, v³ は t²+27qt−27p³=0 の解
カルダノの公式:α=∛(−q/2+√(q²/4+p³/27))+∛(−q/2−√(q²/4+p³/27))
x³−15x−4=0:√−121=11i、(2+i)³=2+11i から α=(2+i)+(2−i)=4(ボンベリ、1572年)
式を変えない入れ替えは、√ で 6→3、∛ で 3→1 と減る
確認クイズ
Q1. u=α+ωβ+ω²γ に回転 (α β γ) をすると、u はどうなる?
正解! β+ωγ+ω²α=ω²(α+ωβ+ω²γ)(ω³=1)。u は ω² 倍になるが、(ω²u)³=ω⁶u³=u³。v に移るのは互換をしたとき。
Q2. x³+px+q=0 で、u³ と v³ を2つの解とする2次方程式は?
正解! u³+v³=−27q、u³v³=(uv)³=(−3p)³=−27p³。和と積が分かれば、t²−(和)t+(積)=0 の2つの解になる。
Q3. カルダノの公式を x³−15x−4=0 に使うと、途中で何が起きる?
正解! q²/4+p³/27=4−125=−121。(2+i)³=2+11i なので、i が打ち消し合って 4 になる。ボンベリが1572年に示した。