第4章 STAGE 5
べき根で解けるとは
√ や ∛ を足すと群はどう小さくなるか
🎯 ミッション
√ や ∛ を加えたときに残る部分群が「左右どちらからずらしても同じ分け方になる部分群(正規部分群)」で、割った残りが巡回群になることを説明しよう。S3 と S4 が段々に {e} まで降りられる(可解群である)ことを確かめられれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、べき根で解くことは、ガロア群を部分群へ段々小さくしていき、最後に e だけにすることだと分かった。ただし、どんな小さくなり方でもよいわけではない。√ や ∛ を1つ加えたときに起きる小さくなり方には、決まった形がある。今日はその形を突き止める。それが分かれば、方程式を解かなくても、ガロア群を見るだけでべき根で解けるかどうかを判定できるようになる。まず √ からだ。3次方程式のガロア群 G で、Δ=(α−β)(β−γ)(γ−α) を変えない入れ替えの集まりを H としよう。G の入れ替え g をすると、Δ は Δ か −Δ になる。これは覚えているね。

うさ美
はい。Δ² は有理数なので、Δ²=(有理数) は関係式です。だから g をしたあとの値も、2乗すると同じ有理数になります。Δ か −Δ です。

ねこ博士
そう。では、G の g と H の h をとって、「g をして、h をして、g の逆 g⁻¹ をする」入れ替え ghg⁻¹ を考える。これをすると、Δ はどうなるかな?

うさ美
g で Δ が εΔ になるとします(ε は 1 か −1)。h は Δ を変えないので、εΔ も変えません。最後の g⁻¹ は g を逆にもどすので、Δ を εΔ に、つまり εΔ を ε×εΔ=Δ にもどします。だから ghg⁻¹ は Δ を変えません。ghg⁻¹ はまた H に入ります。

ねこ博士
その通り。この性質に名前をつけるために、第1章の剰余類を思い出そう。部分群 H と入れ替え g に対して、「g をしてから H の入れ替えをする」もの全体 {gh} を、H を左から g でずらしたコピーと呼び、gH と書く。「H の入れ替えをしてから g をする」もの全体 {hg} は、右から g でずらしたコピー Hg だ。いま分かった「ghg⁻¹ がいつも H に入る」ことを、ずらしたコピーの言葉で言い直すとどうなるかな?

うさ美
ghg⁻¹=h′(h′ は H の入れ替え)なら、右から g を掛けて gh=h′g です。だから gH の入れ替えは、どれも Hg に入ります。gH と Hg は同じ個数なので、gH=Hg です。

ねこ博士
そう。どの g についても gH=Hg、つまり「左からずらしても右からずらしても、同じ分け方になる」部分群を正規部分群という。√ を1つ加えると、ガロア群は正規部分群に縮む。正規部分群にこだわる理由は、あとで「割った残り」を作るときに分かる。まず、例と、当てはまらない例を見よう。3つの解の入れ替え全体で、H={e, (α β γ), (α γ β)} のとき、g=(α β) でずらしたコピーはどうなるかな?

うさ美
H は偶置換全部で、(α β) は奇置換です。偶置換と奇置換を続けると、どちらの順番でも奇置換になるので、gH も Hg も3つの奇置換、つまり3つの互換全部になります。gH=Hg です。

ねこ博士
そう。では H={e, (α β)}、g=(α γ) ではどうかな? (α γ) のあとに (α β) をする入れ替えを計算してごらん。

うさ美
(α γ) のあとに (α β) をすると、α は γ に行って、(α β) では動きません。γ は α に行ってから β に行きます。β は (α γ) では動かず、(α β) で α に行きます。α→γ、γ→β、β→α なので (α γ β) です。だから gH={(α γ), (α γ β)}。逆に (α β) のあとに (α γ) をすると、α→β、β→α→γ、γ→α で (α β γ)。Hg={(α γ), (α β γ)}。gH と Hg がちがいます。{e, (α β)} は正規部分群ではありません。
部分群 H
左からずらしたコピー gH
右からずらしたコピー Hg
ずらしたコピーへの分け方。3つの解の6つの入れ替えを、選んだ部分群 H のずらしたコピーに分け、同じコピーに入るものを同じ色で塗った。上の段は左から(gH)、下の段は右から(Hg)ずらしたときの分け方。2つの段の色分けが同じなら、H は正規部分群。{e, (α β)} などの2個の部分群では、上下で色分けがずれる

ねこ博士
そう。ずらしたコピーへの分け方が上下でそろうかどうかで見分けられる。では、正規部分群だと何が嬉しいのか。G=(3つの解の入れ替え全体)、H={e, (α β γ), (α γ β)} のとき、ずらしたコピーは H と「互換3つ」の2つだ。それぞれから1つずつ選んで続けると、結果はどちらのコピーに入るかな?

うさ美
偶置換どうしなら偶置換で H、偶置換と奇置換なら奇置換、奇置換どうしなら偶置換で H です。どれを選んでも、入るコピーは決まっています。+1 と −1 の掛け算と同じ形ですね。

ねこ博士
そう。正規部分群なら、ずらしたコピーそのものを1つの「もの」と見て、掛け算ができる。gH と kH の掛け算は gkH と決めればいい。この掛け算でできる群を、G を H で割った群(割った残り)と呼ぶ。個数は、ラグランジュの定理で G の個数÷H の個数だ。いまの例は2個で、+1 と −1 の掛け算と同じ形をしている。正規部分群でないとどうなるか、H={e, (α β)} で、コピー H と (α γ)H={(α γ), (α γ β)} から1つずつ選んで続けてごらん。

うさ美
e のあとに (α γ) なら (α γ) で、(α γ)H に入ります。(α β) のあとに (α γ) なら、さっきの計算で (α β γ) です。(α β γ) は (α γ)H にも H にも入らず、3つ目のコピー {(β γ), (α β γ)} に入ります。選び方で答えのコピーが変わるので、コピーどうしの掛け算が決まりません。
正規部分群:どの g についても gH=Hg(左右どちらからずらしても、同じ分け方になる)部分群 H
言いかえると、どの g, h についても ghg⁻¹ が H に入る
正規部分群なら、コピーどうしの掛け算 (gH)(kH)=gkH が決まる → G を H で割った群(個数は G の個数÷H の個数)
例:{e, (α β γ), (α γ β)} は正規部分群。割った群は2個で、+1, −1 の掛け算と同じ形
当てはまらない例:{e, (α β)}。(α γ)H={(α γ), (α γ β)}、H(α γ)={(α γ), (α β γ)}

ねこ博士
今度は ∛ だ。1 の3乗根 ω がすでに使える体に、u=∛a を加えるとしよう。いまのガロア群を G、u を変えない入れ替えの集まりを H とする。G の入れ替え g は、u をどこへ移すかな?

うさ美
u³=a は関係式なので、g で移った先も3乗すると a になります。3乗して a になる数は u, ωu, ω²u の3つなので、そのどれかです。それに ω は体に入っているので、g は ω を動かしません。だから、g で u が ωᵏu になるとすると、ghg⁻¹ は u を ωᵏu にして、h でそのまま、g⁻¹ で ω⁻ᵏ×ωᵏu=u にもどします。√ のときと同じで、H は正規部分群です。

ねこ博士
そう。そして、g が u を ωᵏu に移すとき、g に 1, ω, ω² のどれかを対応させる。2つの入れ替えを続けると、ω の指数が足されるね。だから割った群は、1, ω, ω² の掛け算の一部と同じ形で、巡回群になる。第1章で学んだ、1つの元をくり返し掛けると全部が出てくる群だ。√ の場合も、割った群は +1, −1 の掛け算の一部だから巡回群になる。もっと一般に、1 の n 乗根がある体に ⁿ√a を加えると、割った群は巡回群になる。1 の n 乗根そのものを加える段でも、割った群は巡回群(の積み重ね)にできることが分かっている。
べき根を1つ加えるとガロア群 G は、正規部分群 H に縮み、G を H で割った群は巡回群になる。
・√ を加える:割った群は ±1 の掛け算と同じ形(2個以下)
・ω がある体に ∛ を加える:割った群は 1, ω, ω² の掛け算と同じ形(3個以下)
・1 の n 乗根がある体に ⁿ√ を加える:割った群は巡回群
・√ を加える:割った群は ±1 の掛け算と同じ形(2個以下)
・ω がある体に ∛ を加える:割った群は 1, ω, ω² の掛け算と同じ形(3個以下)
・1 の n 乗根がある体に ⁿ√ を加える:割った群は巡回群

うさ美
3次方程式では、6つの入れ替え全体から {e, (α β γ), (α γ β)} に、それから {e} に縮みました。最初の段は正規部分群で、割った群は2個の巡回群です。次の段も、{e} はどんな群でも正規部分群で、割った群は回転3つ、つまり (α β γ) をくり返して全部出てくる巡回群です。ちゃんと条件をみたしています。

ねこ博士
よく確かめたね。そこで、ガロア群 G から始めて
G=G₀ ⊃ G₁ ⊃ G₂ ⊃ … ⊃ {e}
と、どの段も「1つ前の正規部分群で、割った群が巡回群」になるように {e} まで降りていけるとき、G を可解群という。「解ける群」という意味だ。ガロアが示したのは、方程式がべき根で解けるのは、ガロア群が可解群のとき、そしてそのときに限るということだ。解けるなら、今日見たように群の段々ができる。逆に段々があれば、前のステージの u のような式を作ってべき根で解ける。逆向きの証明は長いので、ここでは事実として受け入れよう。
G=G₀ ⊃ G₁ ⊃ G₂ ⊃ … ⊃ {e}
と、どの段も「1つ前の正規部分群で、割った群が巡回群」になるように {e} まで降りていけるとき、G を可解群という。「解ける群」という意味だ。ガロアが示したのは、方程式がべき根で解けるのは、ガロア群が可解群のとき、そしてそのときに限るということだ。解けるなら、今日見たように群の段々ができる。逆に段々があれば、前のステージの u のような式を作ってべき根で解ける。逆向きの証明は長いので、ここでは事実として受け入れよう。

うさ美
可解群かどうかを確かめるには、正規部分群を探していけばいいんですね。4次方程式の24通りの入れ替えではどうなりますか?

ねこ博士
解に 1, 2, 3, 4 と番号をつけよう。まず、偶置換全部の12個の集まりがある。第1章で、偶置換はちょうど半分だと学んだね。その中に、V={e, (1 2)(3 4), (1 3)(2 4), (1 4)(2 3)} という4個の部分群がある。互換を2つ同時にする入れ替えだけの集まりだ。V の入れ替え h に ghg⁻¹ をすると、h と同じ「2組の入れ替え」の形で、組の番号だけが付け替わったものになる。たとえば g=(1 2 3)、h=(1 2)(3 4) なら ghg⁻¹=(1 3)(2 4) だ。この形の入れ替えは V の3つで全部だから、V は正規部分群だよ。

うさ美
偶置換の12個の集まりは、全体のちょうど半分なので、ずらしたコピーは「偶置換」と「奇置換」の2つしかありません。左からでも右からでも同じ分け方なので、正規部分群です。V の中は、たとえば (1 2)(3 4) のあとに (1 3)(2 4) をしても、逆の順でも (1 4)(2 3) になって、順番によりません。順番によらない群なら gh=hg なので、gH=Hg がいつも成り立ち、{e, (1 2)(3 4)} も V の正規部分群です。

ねこ博士
その通り。割った群の個数を順に計算すると、24÷12=2、12÷4=3、4÷2=2、2÷1=2 だ。これが巡回群かどうかは、どうやって確かめられるかな?

うさ美
第1章のラグランジュの定理で、元の位数は群の個数を割り切ります。個数が素数 p の群なら、e 以外の元の位数は p の約数で 1 ではないので p です。その元をくり返すと p 個全部が出てくるので巡回群です。2 も 3 も素数なので、どの段も巡回群です。4つの解の入れ替え全体は可解群です。
可解群の段々。左は3つの解、右は4つの解の入れ替え全体から {e} まで、正規部分群を1段ずつ降りる列。赤い数字は各段の割った群の個数で、どれも素数なので巡回群になる。2個の段は √、3個の段は ∛ を1つ加えることにあたる

ねこ博士
この段々が、3次・4次方程式に解の公式がある理由だ。4次方程式では、12個から4個へ降りる「3個」の段で ∛ が必要になる。フェラーリの解法が途中で3次方程式を解くのは、この段にあたるんだ。では、5つの解の120通りの入れ替えはどうか。偶置換の60個までは、同じように降りられる。

うさ美
入れ替え全体の半分なので、偶置換の60個は正規部分群で、割った群は2個です。その次は、60個の中に正規部分群を探して、割った群が巡回群になるようにすればいいんですね。60=2²×3×5 なので、30個や20個や12個の部分群を調べることになりますか?

ねこ博士
そう考えたくなるね。でも、部分群を1つずつ探していては終わらない。次のステージでは、もっと強い方法で、どの段にも必ず残ってしまう入れ替えを見つけて、5つの解の入れ替え全体が可解群でないことを証明する。
【このステージの成果】
√ を加えると、Δ のような数を変えない入れ替え H が残る。g, h に対して ghg⁻¹ もまた H に入る
正規部分群:どの g でも gH=Hg(左右どちらからずらしても同じ分け方)。{e, (α β γ), (α γ β)} は正規、{e, (α β)} は正規でない
正規部分群なら (gH)(kH)=gkH と掛け算でき、G を H で割った群ができる。個数は G の個数÷H の個数
べき根を1つ加えると、ガロア群は正規部分群に縮み、割った群は巡回群(√ なら ±1、ω があるときの ∛ なら 1, ω, ω² の形)
可解群:割った群が巡回群になる正規部分群の列で {e} まで降りられる群。べき根で解ける ⇔ ガロア群が可解群(ガロア)
3つの解:6→3→1。4つの解:24→12→4→2→1(V={e, (1 2)(3 4), (1 3)(2 4), (1 4)(2 3)})。個数が素数の群は巡回群なので、どちらも可解群
確認クイズ
Q1. H={e, (α β)} が、3つの解の入れ替え全体の正規部分群でない理由は?
正解! 正規部分群は、どの g でも gH=Hg となる部分群。g=(α γ) で左右のずらしたコピーがずれるので、{e, (α β)} は正規でない。
Q2. ω がすでにある体に ∛a を加えるとき、割った群が巡回群になる理由は?
正解! u³=a は関係式なので、移った先も3乗して a。入れ替えに ω の何乗かを対応させると、続けて行うことが ω の指数の足し算になり、1, ω, ω² の掛け算の一部と同じ形になる。
Q3. 4つの解の入れ替え全体(24個)が可解群である理由は?
正解! 偶置換 12 個、V={e, (1 2)(3 4), (1 3)(2 4), (1 4)(2 3)}、{e, (1 2)(3 4)}、{e} と降りる。個数が素数の群は、e 以外の元をくり返すと全部が出てくる巡回群。