🔷 群・環・体からガロア理論へ
第4章 方程式の対称性 / STAGE 6 ― 5つの入れ替え ―
クリア 0 / 7
第4章 STAGE 6

5つの入れ替え

交換子で3つ組の巡回を作る
🎯 ミッション
「割った群が可換なら、交換子 aba⁻¹b⁻¹ はすべて部分群に入る」ことを示し、5文字では (1 2 3)=aba⁻¹b⁻¹ となる3つ組の巡回 a, b があることを確かめよう。これで5つの解の入れ替え全体が可解群でないことを説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
前のステージで、5つの解の120通りの入れ替えは、偶置換の60個までは1段降りられると分かった。でも、そこから先の正規部分群を1つずつ探していては終わらない。今日は、どの段にも必ず残ってしまう入れ替えを見つけて、5つの入れ替え全体が可解群でないことを証明する。これができれば、5次方程式の謎まであと1歩だ。まず、第1章で出てきた言葉を思い出そう。どの2つの元 a, b についても ab=ba となる群を可換群(アーベル群)と呼んだね。巡回群はいつも可換群になる。なぜかな?
うさ美
巡回群は、1つの元 g をくり返し掛けると全部が出てくる群でした。だから元はどれも g を何回か掛けたもので、gᵐ と gⁿ なら gᵐgⁿ=gᵐ⁺ⁿ=gⁿgᵐ です。どちらの順番でも、g を合わせて m+n 回掛けるだけです。
ねこ博士
そう。可解群の段々では、割った群がどれも巡回群だったから、どれも可換群だ。ここで、ab と ba がどれだけちがうかを測る入れ替えを考える。a をして、b をして、a を逆にもどして、b を逆にもどす。これを a と b の交換子といい、aba⁻¹b⁻¹ と書く。ab=ba なら、交換子はどうなるかな?
うさ美
ab=ba なら、aba⁻¹b⁻¹=baa⁻¹b⁻¹ です。aa⁻¹ は何もしないのと同じなので、bb⁻¹ になって e です。順番を交換できるなら、交換子は e になります。
ねこ博士
その通り。交換子が e でないことが、順番を交換できないことの印になる。では、本題だ。H が G の正規部分群で、G を H で割った群が可換群だとする。このとき、G のどんな a, b についても、交換子 aba⁻¹b⁻¹ が H に入ることを示そう。割った群が可換だから (aH)(bH)=(bH)(aH)、つまり abH=baH だね。
うさ美
abH=baH なら、ab は baH に入るので、H の h を使って ab=bah と書けます。両辺の左から (ba)⁻¹ を掛けると、h=(ba)⁻¹ab です。ba を逆にもどすには、後からした a を先にもどして、次に b をもどすので、(ba)⁻¹=a⁻¹b⁻¹。だから a⁻¹b⁻¹ab=h は H に入ります。これは a⁻¹ と b⁻¹ の交換子です。
ねこ博士
そう。a と b は G のどれでもよかったから、a のかわりに a⁻¹、b のかわりに b⁻¹ を使えば?
うさ美
(a⁻¹)⁻¹=a なので、a⁻¹b⁻¹ab の a を a⁻¹、b を b⁻¹ にかえると aba⁻¹b⁻¹ です。G のどんな a, b でも、交換子 aba⁻¹b⁻¹ は H に入ります。
交換子:aba⁻¹b⁻¹(a をして、b をして、a をもどして、b をもどす)。ab=ba なら e H が G の正規部分群で、G を H で割った群が可換群なら:abH=baH ab=bah(h は H の元)→ h=(ba)⁻¹ab=a⁻¹b⁻¹ab((ba)⁻¹=a⁻¹b⁻¹) a, b を a⁻¹, b⁻¹ にかえて:G のどんな a, b でも aba⁻¹b⁻¹ は H に入る
ねこ博士
これを可解群の段々にあてはめよう。G₀ ⊃ G₁ ⊃ G₂ ⊃ … ⊃ {e} の各段で、割った群は巡回群、つまり可換群だった。何が言えるかな?
うさ美
G₁ は、G₀ のどの2つの元の交換子も含みます。G₂ は、G₁ のどの2つの元の交換子も含みます。1つ下の段は、1つ上の段の元どうしの交換子を全部含む、ということです。
ねこ博士
そう。ここで3つ組の巡回、つまり (1 2 3) のように3つの番号を順に付け替える入れ替えに注目する。5つの番号 1, 2, 3, 4, 5 があれば、3つ組の巡回はどれも、3つ組の巡回どうしの交換子で書けるんだ。たとえば a=(1 4 3)、b=(1 5 2) として、交換子 aba⁻¹b⁻¹ を計算してごらん。a⁻¹ と b⁻¹ は、矢印を逆にして a⁻¹=(1 3 4)、b⁻¹=(1 2 5) だね。
うさ美
番号を1つずつ追います。1 は a で 4、b で 4 のまま、a⁻¹ で 1、b⁻¹ で 2。だから 1→2。2 は a で 2、b で 1、a⁻¹ で 3、b⁻¹ で 3 のまま。2→3。3 は a で 1、b で 5、a⁻¹ で 5 のまま、b⁻¹ で 1。3→1。4 は a で 3、b で 3、a⁻¹ で 4、b⁻¹ で 4。4→4。5 は a で 5、b で 2、a⁻¹ で 2、b⁻¹ で 5。5→5。結果は 1→2→3→1 で、(1 2 3) です!
a=(1 4 3)、b=(1 5 2)、a⁻¹=(1 3 4)、b⁻¹=(1 2 5) 1:1 →(a) 4 →(b) 4 →(a⁻¹) 1 →(b⁻¹) 2 2:2 →(a) 2 →(b) 1 →(a⁻¹) 3 →(b⁻¹) 3 3:3 →(a) 1 →(b) 5 →(a⁻¹) 5 →(b⁻¹) 1 4 と 5 は動かない → aba⁻¹b⁻¹=(1 2 3) 一般に、x, y, z, d, e がすべてちがう番号なら (x y z)=aba⁻¹b⁻¹、ただし a=(x d z)、b=(x e y)
ねこ博士
その通り。一般に、ちがう5つの番号 x, y, z, d, e があれば、a=(x d z)、b=(x e y) の交換子が (x y z) になる。どの3つ組の巡回でも作れることを、実際に動かして確かめよう。
作りたい巡回
交換子で3つ組の巡回を作る。5つの箱には、はじめ 1〜5 の番号が入っている。操作 a, b, a⁻¹, b⁻¹ を順にすると、箱の中の番号が付け替わる(変わった箱が赤くなる)。4回終わったとき、箱 x に y、箱 y に z、箱 z に x が入り、残り2つの箱はもとのまま。つまり交換子が (x y z) になる。上で作りたい巡回を選ぶと、使う a=(x d z)、b=(x e y) が変わる
うさ美
d と e には、x, y, z 以外の2つの番号を使うんですね。だから番号が5つ要ります。4つしかないと、この作り方はできないということですか?
ねこ博士
そう。4つの番号では、3つ組の巡回は (1 2 3) のように4つのうち3つを使うから、余りが1つしかない。実際、4つの番号の3つ組の巡回8個のどの2つの交換子を計算しても、出てくるのは e と、(1 2)(3 4) のような「2組の入れ替え」だけで、3つ組の巡回は1つも出てこない。前のステージの V に入るものばかりだ。全部の組を計算して比べてみよう。
3つ組の巡回どうしの交換子を全部計算する。番号が4つのとき、3つ組の巡回は 8 個あり、8×8=64 組の交換子を計算すると、e と2組の入れ替え3つしか出てこない。番号が5つのとき、3つ組の巡回は 20 個あり、20×20=400 組の交換子の中に、3つ組の巡回 20 個がすべて現れる
うさ美
4つの番号では、3つ組の巡回から交換子を作ると V に落ちて、V の交換子はみんな e なので、24→12→4→… と降りていけたんですね。5つの番号ではそうならない。では、5つの入れ替え全体 G₀ には、3つ組の巡回が全部入っているので、G₁ は G₀ の3つ組の巡回どうしの交換子を全部含みます。それは3つ組の巡回全部です。
ねこ博士
そう。続けてごらん。
うさ美
G₁ に3つ組の巡回が全部入っているので、G₂ も G₁ の3つ組の巡回どうしの交換子、つまり3つ組の巡回を全部含みます。同じことがどこまでも続くので、どの段にも3つ組の巡回 20 個が全部残ります。最後の {e} には (1 2 3) が入っていないので、{e} まで降りられません。5つの入れ替え全体は、可解群ではありません。
G₀=入れ替え全体(120個) G₁ G₂ {e} には届かない ⋮ 3つ組の巡回 20 個がすべて入る G₀ の交換子として20 個すべて入る G₁ の交換子として20 個すべて入る (1 2 3) が入らない
5つの入れ替え全体が可解群でない理由。可解群の段々では、下の段は上の段の元どうしの交換子をすべて含む。5つの番号があれば3つ組の巡回はどれも3つ組の巡回どうしの交換子なので、3つ組の巡回 20 個はどの段にも残る。だから {e} まで降りられない
ねこ博士
よくたどり着いたね。同じ議論は、番号が6つ以上でもそのまま使える。番号が5つ以上あれば、入れ替え全体は可解群にならないんだ。そして、係数を文字のままにした「一般の5次方程式」のガロア群は、5つの解の入れ替え全体になることが知られている。だから、どんな5次方程式にも使える解の公式はない。これがアーベルの定理を、ガロアの見方で言い直したものだ。
うさ美
一般の5次方程式に公式がないことは分かりました。でも、x⁵−6x+3=0 のような、数が決まった1つの方程式が解けないことを言うには、その方程式のガロア群が5つの入れ替え全体だと示さないといけません。x⁵−1 のように解ける5次方程式もあるので、そこは方程式ごとに確かめるんですね。
ねこ博士
そう。ガロア群が可解群でなければ、たとえば3つ組の巡回を全部含んでいれば、その方程式はべき根では解けない。次のステージでは、x⁵−6x+3 のガロア群が5つの入れ替え全体になることを示し、この章の謎に決着をつける。
【このステージの成果】 可換群:どの a, b でも ab=ba となる群。巡回群は可換群(gᵐgⁿ=gⁿgᵐ) 交換子 aba⁻¹b⁻¹:a, b をして、a, b の順にもどす入れ替え。ab=ba なら e G を正規部分群 H で割った群が可換なら、G のどんな a, b でも交換子は H に入る(abH=baH から) 5つの番号があれば (x y z)=aba⁻¹b⁻¹(a=(x d z)、b=(x e y))。例:(1 4 3) と (1 5 2) の交換子=(1 2 3) 4つの番号では、3つ組の巡回どうしの交換子は e と2組の入れ替えだけ。だから 24→12→4→2→1 と降りられる 可解群の段々のどの段にも3つ組の巡回が全部残るので、5つの入れ替え全体は可解群でない。一般の5次方程式に解の公式はない

確認クイズ

Q1. G を正規部分群 H で割った群が可換群なら、何が言える?

Q2. a=(1 4 3)、b=(1 5 2) の交換子 aba⁻¹b⁻¹ は?

Q3. 4次方程式には解の公式があるのに、5つの入れ替え全体が可解群でない議論が4つの番号では使えない理由は?