🔷 群・環・体からガロア理論へ
第4章 方程式の対称性 / STAGE 7 ― 解けない5次方程式 ―
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第4章 STAGE 7

解けない5次方程式

x⁵−6x+3 のガロア群と旅のまとめ
🎯 ミッション
x⁵−6x+3 が既約で、実数解がちょうど3つあることを示そう。そこからガロア群が5つ組の巡回と互換を含み、5つの入れ替え全体になることを説明できれば、5次方程式に解の公式がないことの証明が完成して合格。
未達成
ねこ博士
いよいよ最後のステージだ。前のステージで、5つの解の入れ替え全体は可解群でないと分かった。あとは、具体的な方程式 x⁵−6x+3=0 のガロア群が、5つの入れ替え全体になることを示せばいい。そうすれば、この方程式はべき根で解けず、どんな5次方程式にも使える解の公式もないことが確定する。必要な材料は3つ。①既約であること ②実数解の個数 ③群の性質だ。まず①から。x⁵−6x+3 が有理数の解をもたないことを、第3章の判定で確かめてごらん。
うさ美
最高次の係数が 1 なので、有理数の解があるなら定数項 3 の約数で、±1, ±3 のどれかです。x=1 で 1−6+3=−2、x=−1 で −1+6+3=8、x=3 で 243−18+3=228、x=−3 で −243+18+3=−222。どれも 0 にならないので、有理数の解はありません。でも5次式だと、2次式と3次式の積に分かれるかもしれません。
ねこ博士
そう。そこで別の判定法を使う。まず事実を1つ。有理数係数の2つの多項式の積に分けられるなら、最高次の係数が 1 の整数係数の多項式の積にも分けられる。ガウスの補題と呼ばれるものだ。だから、整数係数で x⁵−6x+3=g(x)h(x) と分かれたとして矛盾を導けばいい。g(x)=xk+…+b₁x+b₀、h(x)=x5−k+…+c₁x+c₀(1≦k≦4)とおく。定数項を比べるとどうなるかな?
うさ美
b₀c₀=3 です。3 は素数なので、b₀ と c₀ のうち、ちょうど一方だけが 3 で割り切れます。b₀ のほうが割り切れて、c₀ は割り切れないとします。次に x の係数を比べると、b₀c₁+b₁c₀=−6 です。b₀c₁ も −6 も 3 で割り切れるので、b₁c₀ も割り切れます。c₀ は 3 で割り切れないので、第2章で学んだ「素数は素元」から、b₁ が 3 で割り切れます。
ねこ博士
その通り。x² の係数でも同じことをしてごらん。
うさ美
x² の係数は b₀c₂+b₁c₁+b₂c₀=0 です。b₀ と b₁ は 3 で割り切れるので、b₂c₀ も 3 で割り切れて、b₂ が 3 で割り切れます。x³, x⁴ の係数も 0 なので、同じように続けると、b₀, b₁, …, bk がみんな 3 で割り切れます。でも bk は g(x) の最高次の係数で 1 です。1 は 3 で割り切れないので矛盾です。だから x⁵−6x+3 は既約です。
x⁵−6x+3=g(x)h(x) と整数係数で分かれたとする(ガウスの補題)。g(x)=xk+…+b₁x+b₀、h(x)=x5−k+…+c₀、ただし 1≦k≦4 定数項:b₀c₀=3 → b₀ だけが 3 で割り切れるとしてよい x の係数:b₀c₁+b₁c₀=−6 → b₁c₀ が 3 で割り切れる → b₁ が 3 で割り切れる(3 は素元、c₀ は割り切れない) x², x³, x⁴ の係数はどれも 0 → 同じ理由で b₂, b₃, … も 3 で割り切れる bk=1 も 3 で割り切れることになり矛盾 → x⁵−6x+3 は既約
ねこ博士
そう。いまの議論は、「最高次以外の係数がすべて素数 p で割り切れ、定数項は p² では割り切れない」ならいつでも使える。アイゼンシュタインの判定法という。x⁵−6x+3 は p=3 でこの条件をみたしている。次は②、実数解の個数だ。x に −2, −1, 0, 1, 2 を入れて、値の符号を調べてごらん。
うさ美
x=−2 で −32+12+3=−17、x=−1 で 8、x=0 で 3、x=1 で −2、x=2 で 32−12+3=23 です。符号は −, +, +, −, + で、−2 と −1 の間、0 と 1 の間、1 と 2 の間で符号が変わります。グラフはつながっているので、それぞれの間で x 軸を横切ります。実数解は少なくとも3つあります。
ねこ博士
そう。では5つ全部が実数解ということはあるかな? 解と係数の関係を使ってごらん。x⁴ と x³ の項がないことに注目するといい。
うさ美
5つの解を x₁, …, x₅ とすると、x⁴ の係数が 0 なので、解の和 x₁+…+x₅=0。x³ の係数が 0 なので、2つずつ掛けた積の和も 0 です。解の2乗の和は (和)²−2×(2つずつの積の和)=0−0=0。もし5つとも実数なら、2乗はどれも 0 以上なので、和が 0 になるのは全部 0 のときだけです。でも x=0 は解ではありません。だから5つ全部が実数ということはありません。
ねこ博士
その通り。もう1つ思い出そう。複素数 a+bi に対して、i を −i にかえた a−bi を共役な複素数というんだったね。係数がすべて実数の方程式で、z が解なら、共役な z も解になる。f(z) を計算する足し算と掛け算は、共役をとっても成り立つから、f(z) は f(z)=0 の共役で 0 になるんだ。ここから実数解の個数が決まるよ。
うさ美
実数でない解は、共役どうしの組で出てくるので、実数でない解の個数は偶数です。5−(実数解の数) が 0, 2, 4 のどれかなので、実数解は 5, 3, 1 個のどれか。少なくとも3つで、5つではないので、実数解はちょうど3つ、実数でない解は共役な2つです。
x⁵−6x+3=0 の5つの解。左は y=x⁵−6x+3 のグラフで、x 軸と交わる3点(赤)が実数解。右は5つの解を複素数平面に描いたもの。実数解3つは実軸の上、残りの2つ(青)は実軸をはさんで上下対称の位置にある。「複素共役をとる」を押すと、実軸での折り返しで青の2つが入れ替わり、赤の3つは動かない
ねこ博士
これで材料①②がそろった。いよいよ③、ガロア群 G を調べよう。まず、複素共役をとる操作、つまり i を −i にかえる操作は、5つの解をどう入れ替えるかな?
うさ美
実数解3つは動かさず、実数でない2つを入れ替えます。そして、解の間の関係式が 0 なら、共役をとっても 0 のままなので、関係式を保ちます。だからガロア群は互換を1つ含みます。
ねこ博士
そう。次は5つ組の巡回だ。α を解の1つとすると、x⁵−6x+3 は既約だから、第3章で学んだ通り ℚ(α) の次数は 5。分解体 L は ℚ(α) を含む。次数の積の法則から何が言えるかな?
うさ美
L の ℚ の上の次数は、(L の ℚ(α) の上の次数)×5 です。ガロア群の個数は L の次数と等しいので、ガロア群の個数は 5 で割り切れます。
ねこ博士
ここで、もう1つ事実を使う。群の個数が素数 p で割り切れるなら、その群には位数がちょうど p の元がある。1845年ごろにコーシーが示したので、コーシーの定理と呼ばれる。ラグランジュの定理の逆向きの一部にあたるものだ。だから G には位数 5 の入れ替え σ がある。5つの番号の入れ替えで位数が 5 になるのは、どんな形かな?
うさ美
入れ替えは、いくつかの巡回に分けて書けます。長さ L の巡回は L 回くり返すともとにもどります。σ を5回くり返して全部がもとにもどるには、どの巡回の長さも 5 を割り切るので、1 か 5 です。全部長さ 1 なら e なので、長さ 5 の巡回が1つあります。σ は5つ組の巡回です。
ねこ博士
そう。最後に、5つ組の巡回と互換が両方入っていると、5つの入れ替え全部が出てくることを示そう。互換が (a b) のとき、σ を何回かくり返した σk で a が b に行くものがある。σk も5つ組の巡回になるから、解に番号をつけ直して、σk=(1 2 3 4 5)、互換を (1 2) としてよい。改めて σ=(1 2 3 4 5)、τ=(1 2) として、σ⁻¹τσ、つまり σ をもどして、τ をして、σ をする入れ替えを計算してごらん。
うさ美
σ⁻¹ は 2→1、3→2、… と1つずつ戻す入れ替えです。2 は σ⁻¹ で 1、τ で 2、σ で 3。3 は σ⁻¹ で 2、τ で 1、σ で 2。ほかの番号、たとえば 1 は σ⁻¹ で 5、τ で 5、σ で 1 と、もとにもどります。だから σ⁻¹τσ=(2 3)。同じことをもう一度すると (3 4)、さらに (4 5) が出てきます。
ねこ博士
その通り。(1 2), (2 3), (3 4), (4 5) という、となりどうしの入れ替えが全部そろった。第1章で、どんな互換もとなりどうしの入れ替えを続けて作れること、どんな入れ替えも互換の積で書けることを学んだね。実際に作ってみよう。
5つ組の巡回と互換から、5つの入れ替え全体を作る。σ=(1 2 3 4 5)、τ=(1 2) から始める。「σ⁻¹(いま)σ を作る」を押すたびに、最後に作った互換を σ でずらした互換ができ、(2 3), (3 4), (4 5) と、となりどうしの入れ替えがそろう。「数える」を押すと、σ と τ をくり返し組み合わせてできる入れ替えを全部数え、120 個、つまり5つの入れ替え全体になることを確かめる
うさ美
ガロア群は σ と τ を含み、群なのでそれを組み合わせたものも全部含みます。となりどうしの入れ替えが全部そろえば、どんな互換も、どんな入れ替えも作れるので、x⁵−6x+3 のガロア群は5つの入れ替え全体です。前のステージで、これは可解群ではないと分かっているので、x⁵−6x+3=0 はべき根で解けません。5次方程式の解の公式があれば、この方程式にも使えるはずなので、5次方程式に解の公式はありません。
① アイゼンシュタインの判定法(p=3)で x⁵−6x+3 は既約 → ℚ(α) の次数は 5 ② 符号の変化で実数解は 3 つ以上。解の2乗の和=0 なので 5 つ全部は実数でない。共役の組で → 実数解 3 つ、実数でない解 2 つ ③-1 複素共役は実数でない2つの解を入れ替え、ほかを動かさない → G は互換を含む ③-2 G の個数=L の次数は 5 で割り切れる → コーシーの定理で位数 5 の元 → G は5つ組の巡回を含む ③-3 σ⁻¹τσ=(2 3) などでとなりどうしの入れ替えがそろう → G は5つの入れ替え全体 5つの入れ替え全体は可解群でない → x⁵−6x+3=0 はべき根で解けない → 5次方程式に解の公式はない
うさ美
300年かかった謎が、群・環・体を全部使って解けました。第1章の置換と剰余類、第2章の素元、第3章の次数と既約多項式。どれか1つでも欠けていたら、たどり着けませんでした。
ねこ博士
そうだね。どの章の道具がどこで使われたか、振り返っておこう。
第1章 群 置換・互換・偶奇/部分群と剰余類 ラグランジュの定理/巡回群・位数 第2章 環 既約元と素元/互除法 素数は素元(アイゼンシュタインの判定法で使う) 第3章 体 体の拡大と次数/既約多項式 有理根の判定/次数の積の法則 第4章 ガロア理論 ガロア群=関係式を保つ解の入れ替え 中間の体 ↔ 部分群(ガロアの基本定理) べき根で解ける ⇔ ガロア群が可解群
群・環・体からガロア理論へ。上の3つの箱は各章で学んだ道具、いちばん下の箱はそれを合わせてできたガロア理論。5次方程式の証明では、既約性に第2章と第3章、実数解の個数に対称式、ガロア群の決定に第1章と第3章の道具を使った
うさ美
アイゼンシュタインの判定法の中で、第2章の「素数は素元」が使われていました。ガロアは、自分の理論が正しいことに自信があったんですか?
ねこ博士
あったようだね。ガロアは決闘の前夜の手紙の最後に、自分の定理が正しいかどうかではなく、それが重要かどうかについて、ヤコビやガウスに意見を聞いてほしいと書いた。その答えは、歴史が出したといえる。ガロアの考えは、方程式を解く話を越えて、数学のあちこちで使われている。第3章の QR コードで使った有限の体は、ガロア体とも呼ばれる。そして、350年以上解けなかったフェルマーの最終定理を1995年にワイルズが証明したとき、その中心にあったのも、ガロア群が数の世界に対称性として働く様子(ガロア表現)だった。
うさ美
フェルマーの最終定理にも、ガロア群がつながっているんですね。第2章のラメの誤証明やクンマーの話とも関係していそうです。
ねこ博士
そう。その続きは『フェルマーの最終定理、証明への道』で、楕円曲線やモジュラー形式とともにたどれる。この章で身につけた「解の入れ替えを見て、方程式の性質を読む」という見方は、そこでも道しるべになる。これで、群・環・体からガロア理論への旅はおしまいだ。よくがんばったね。
【このステージの成果】 既約性:有理数の解 ±1, ±3 はない。ガウスの補題とアイゼンシュタインの判定法(p=3)で、2次と3次の積にも分かれない 実数解の個数:f(−2)<0, f(−1)>0, f(1)<0, f(2)>0 で3つ以上。解の2乗の和が 0 なので5つ全部は実数でない。共役の組で、ちょうど3つ ガロア群は、複素共役から互換を、5 で割り切れる個数とコーシーの定理から5つ組の巡回を含む σ=(1 2 3 4 5)、τ=(1 2) から σ⁻¹τσ=(2 3)…となりどうしの入れ替えがそろい、5つの入れ替え全体(120個)になる 5つの入れ替え全体は可解群でない → x⁵−6x+3=0 はべき根で解けない → 5次方程式に解の公式はない ガロアの考えは、有限の体(ガロア体)やフェルマーの最終定理の証明(ガロア表現)にもつながっている

確認クイズ

Q1. x⁵−6x+3 の実数解がちょうど3つだと言える理由は?

Q2. x⁵−6x+3 のガロア群が互換を含む理由は?

Q3. σ=(1 2 3 4 5)、τ=(1 2) のとき、σ⁻¹τσ(σ をもどして、τ をして、σ をする)は?