🔷 群・環・体からガロア理論へ
第1章 対称性を計算する / STAGE 1 ― 解けない15パズル ―
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第1章 STAGE 1

解けない15パズル

謎と、正三角形の6つの動かし方
🎯 ミッション
15パズルの謎を体験し、正三角形を枠にぴったりはめ直す動かし方が6つあること、2つの操作を続けて行うと6つのどれかになること(r のあとに s₁ をすると s₂)を確かめよう。
未達成
ねこ博士
この章では、ある有名なパズルの謎を解く。15パズルを知っているかな? 4×4 のマスに、1 から 15 のタイルと空白が1つある。できるのは、空白のとなりのタイルを空白へすべらせることだけだ。1880年ごろ、アメリカで大流行したパズルなんだ。
うさ美
知っています。左上から 1, 2, 3, … と順に並べて、右下を空白にすれば「そろった状態」です。タイルは取り外せないので、空白を少しずつ動かしながら並べていくんですよね。
ねこ博士
そう。では、こんな問題を考えよう。そろった状態から、14 と 15 のタイルだけを取り外して、入れ替えてはめ直す。この配置から、すべらせる動きだけで、そろった状態に戻せるかな?
15パズル。空白と同じ行か列にあるタイルをタップすると、空白のほうへすべる。「14 と 15 を入れ替えた配置」を押してから、そろった状態に戻せるか試してみよう。「よく混ぜる」は、そろった状態からタイルをすべらせて混ぜた配置を作る(こちらはそろえ直せる)
うさ美
小さいころに遊んだことがあります。この配置だけは、ほかをそろえても最後に 15, 14 の順で残ってしまって、できないことは感覚では知っていました。でも、動かし方は限りなくあるのに、「できない」と数学的に証明することなんてできるんですか?
ねこ博士
できるんだ。パズル作家のサム・ロイドは、この配置をそろえた人に 1000 ドルの賞金を出すと宣伝したと、のちに書き残している。けれど、賞金を受け取った人はいない。その前の1879年に、ジョンソンとストーリーという2人の数学者が、この配置はどう動かしてもそろわないことを証明していたんだ。
うさ美
全部の動かし方を試すわけにはいきませんよね。どうやって証明したんですか?
ねこ博士
全部は試さない。そのかわりに、どう動かしても変わらない性質を見つけるんだ。そろった状態はその性質をもっていて、14 と 15 を入れ替えた配置はもっていない。そういう性質が見つかれば、どれだけ動かしてもたどり着けないと言い切れる。そのためには、「タイルを動かす」という操作そのものを、数のように計算する道具が要る。それが、この章で学ぶ群(ぐん)だ。
うさ美
数なら足したり掛けたりできますが、「動かす」は数ではありません。操作どうしで計算するとは、どういうことですか?
ねこ博士
操作を続けて行うことを、掛け算のように考えるんだ。「空白を右に1つ動かしてから、上に1つ動かす」は、2つの操作から新しい1つの操作を作っているね。数の掛け算が 2 と 3 から 6 を作るのと同じ形だ。この考え方はパズルだけのものではない。インターネットの通信を守ってきた RSA 暗号は、「時計の算術」と呼ばれる群の性質で動いている。そして第4章では、「5次方程式には、なぜ解の公式がないのか」という大問題を、方程式の解を入れ替える操作の群で解き明かす。
うさ美
パズルのタイルを動かすことと、暗号と、方程式の解を入れ替えることが、同じ道具で計算できるということですか? 暗号の「時計の算術」というのは、何のことですか?
ねこ博士
そう。どれも「操作を続けて行う」「もとに戻す」という計算の仲間なんだ。時計の算術は、12 時の 5 時間後を 17 時ではなく 5 時と数えるように、割った余りだけで計算する方法で、STAGE3 でくわしく扱う。この章でできるようになることを、まとめておこう。
この章でできるようになること・回す・裏返す・入れ替えるといった操作を、掛け算のように計算できる
・操作の集まりがもつ共通の性質(群の4つの条件)を見分けられる
・時計の算術(mod)で、余りの世界の足し算・掛け算ができる
・群を等分割する考え方(ラグランジュの定理)から、フェルマーの小定理を証明できる
・RSA 暗号で、小さな数を実際に暗号化・復号できる
・入れ替えの偶数・奇数を使って、15パズルの謎を証明できる
うさ美
まず何から計算するんですか? 15パズルは 16 マスにタイルと空白を並べるので、並べ方は 16×15×14×…×2×1 通りもあって、いきなり扱うには大きすぎます。
ねこ博士
そうだね。だから、いちばん小さな例から始めよう。正三角形の板があって、頂点に 1, 2, 3 の番号が書いてある。はじめは、上の頂点に 1、左下に 2、右下に 3 がある。この板を持ち上げて、動かして、もとの三角形の枠にぴったりはめ直す。はめ直し方は何通りあるかな? 板の表と裏も区別するよ。
うさ美
頂点 1 をどの角に置くかで 3 通りです。頂点 1 の場所を決めると、残りの 2 と 3 の置き方は、表を上にした置き方と、裏返した置き方の 2 通りに決まります。だから 3×2=6 通りです。
ねこ博士
その通り。この6つの動かし方に名前をつけよう。何もしない動かし方を e、左回り(時計の針と逆向き)に 120° 回すのを r、240° 回すのを r² と書く。r を2回することだからね。裏返しは3つある。枠の上の角を通る縦の軸を軸1、左下の角を通る軸を軸2、右下の角を通る軸を軸3 として、軸1, 2, 3 で裏返すのを s₁, s₂, s₃ と書く。軸は枠のほうに固定されていて、板を動かしても動かない。この6つのように、形をぴったり重ねる動かし方の全体を、正三角形の対称性という。
表123e:(1, 2, 3)表312r:(3, 1, 2)表231r²:(2, 3, 1)裏132s₁:(1, 3, 2)裏321s₂:(3, 2, 1)裏213s₃:(2, 1, 3)
正三角形の6つの置き方。それぞれの動かし方をしたあと、上・左下・右下の角にある頂点の番号を (上, 左下, 右下) の順に書いた。上の段は回転(表のまま)、下の段は裏返し(点線が裏返しの軸)。赤い丸が頂点 1
うさ美
r をすると、上にあった 1 は左下へ、左下の 2 は右下へ、右下の 3 は上へ行きます。上・左下・右下の順に番号を書くと (3, 1, 2) です。r² はそれをもう一度回すので (2, 3, 1) です。
ねこ博士
そう。では、2つの操作を続けて行ってみよう。r をしてから s₁ をすると、全体ではどの動かし方になるかな?
うさ美
r で (3, 1, 2) になります。s₁ は上の角を通る縦の軸での裏返しなので、上の 3 はそのままで、左下と右下が入れ替わって (3, 2, 1)。2 が最初と同じ左下にあって、板は裏返っています。左下を通る軸2 で裏返したのと同じ置き方なので、s₂ です。
はじめ:(1, 2, 3)(上・左下・右下の角にある頂点の番号) r(左回りに 120°):上の頂点は左下へ、左下は右下へ、右下は上へ → (3, 1, 2) 続けて s₁(軸1 で裏返す):上はそのまま、左下と右下が入れ替わる → (3, 2, 1) 頂点 2 だけがもとの角にあり、板は裏 → 軸2 での裏返しと同じ。r のあとに s₁ をすると s₂
正三角形を動かす。ボタンで r(左回りに 120°)と、軸1〜3 での裏返し s₁, s₂, s₃ を続けて行える。点線の軸は枠に固定されていて動かない。赤い丸が頂点 1。いまの並び(上・左下・右下の番号)と、これまでの操作を1つにまとめると e, r, r², s₁, s₂, s₃ のどれになるかを表示する
ねこ博士
そう。「操作 a のあとに操作 b をする」ことを ab と書いて、a と b の積と呼ぶ。左から順に行う、という約束だ。いまの計算は rs₁=s₂ と書ける。では、順番を逆にして、s₁ のあとに r をすると?
うさ美
s₁ で (1, 3, 2)。r で、上の 1 が左下へ、左下の 3 が右下へ、右下の 2 が上へ行くので (2, 1, 3)。3 だけがもとの右下にあって裏返っているので s₃ です。s₁r=s₃ で、rs₁=s₂ と違います。数の掛け算は 2×3=3×2 なのに、操作の積は順番で結果が変わるんですね。
ねこ博士
その通り。靴下をはいてから靴をはくのと、靴をはいてから靴下をはくのとでは、結果が違うね。操作は順番が大事なんだ。もう1つ大事なことがある。6つのうちのどの2つを続けて行っても、結果は必ず6つのどれかと同じになる。なぜかな?
うさ美
1回目の操作のあと、板は枠にぴったりはまっています。そこから2回目の操作をしても、やはりぴったりはまります。ぴったりはまる置き方は全部で6通りしかないので、2回続けた結果も、6つのどれか1つの操作をしたときと同じ置き方になります。
ねこ博士
そう。このことを、6つの操作は積について閉じているという。そして e は、数の 1 のような役割をする。e のあとに a をしても、a のあとに e をしても、a だけをしたのと同じだからね。では、r をしたあと、もとに戻すには何をすればいいかな?
うさ美
あと 240° 回せば合わせて 360° でひと回りなので、r² をすれば戻ります。rr²=e です。s₁ は、同じ軸でもう一度裏返せば戻るので s₁s₁=e。どの操作にも、もとに戻す操作がこの6つの中にあります。
ねこ博士
そう。操作 a を打ち消してもとに戻す操作を、a の逆と呼んで a⁻¹(エー・インバース)と書く。r⁻¹=r²、s₁⁻¹=s₁ だ。積が6つの中で閉じていること、何もしない e があること、どれにも逆があること。この3つが、次のステージで定義する「群」の中心になる。
うさ美
15パズルの1手にも、もとに戻す操作がありますね。空白を右に動かしたら、左に動かせばもとに戻ります。
ねこ博士
そう。正三角形の6つの操作は、3つの頂点の置き場所の入れ替えになっている。15パズルの1手も、空白とタイルの置き場所の入れ替えだ。どちらも「入れ替え」の計算として、同じ道具で扱えるんだ。
うさ美
3つの頂点の並べ方は 3×2×1=6 通りで、正三角形の操作も6つなので、正三角形の動かし方で、3つの頂点のどんな並べ方も作れるということですね。
ねこ博士
そう。次のステージでは、6つの操作どうしの積を全部計算して掛け算表を作り、そこから群の正確な定義に進もう。
【このステージの成果】 14 と 15 を入れ替えた15パズルは、すべらせるだけではそろわない(1879年に証明)。全部を試すかわりに「どう動かしても変わらない性質」を探す 操作そのものを計算する道具が群。パズル・暗号(RSA)・方程式の解の公式(第4章)につながる 正三角形を枠にはめ直す動かし方は 3×2=6 通り:e, r, r²(回転)と s₁, s₂, s₃(裏返し) 「a のあとに b」を積 ab と書く。rs₁=s₂、s₁r=s₃ で、順番を変えると結果が変わる 6つの操作は積について閉じていて、何もしない e があり、どれにも逆(r⁻¹=r²、s₁⁻¹=s₁)がある

確認クイズ

Q1. 正三角形の板を、枠にぴったりはめ直す動かし方(表と裏も区別する)は何通り?

Q2. r(左回りに 120°)のあとに s₁(上の角を通る軸1 で裏返す)をした積 rs₁ は、6つの操作のどれと同じ?

Q3. 14 と 15 を入れ替えた15パズルが「どう動かしてもそろわない」と言い切るために、この章でとる方法は?