第1章 STAGE 2
操作の掛け算表
掛け算表から群の4つの条件へ
🎯 ミッション
正三角形の6つの操作の掛け算表を読み、どの行にも各操作がちょうど1回ずつ出る理由を説明しよう。群の4つの条件を言えて、整数の足し算は群・自然数の足し算は群でないことを判定できれば合格。
未達成

ねこ博士
前のステージで、正三角形を枠にぴったりはめ直す6つの操作 e, r, r², s₁, s₂, s₃ を見つけた。e は何もしない、r は左回りに 120° 回す、s₁, s₂, s₃ は枠に固定した軸1, 2, 3 での裏返しで、ab は「a のあとに b をする」積だったね。15パズルの謎を解くには、操作の計算のルールをはっきり決めておく必要がある。今日はまず、6つの操作どうしの積を全部表にしよう。

うさ美
6×6=36 通りの積があります。e は何もしないので、e との積は ea=ae=a。回転どうしは角度を足せばよくて、rr=r²、rr²=e、r²r²=r⁴ で 480°=360°+120° なので r です。残りの、裏返しが入った積は、前のステージのように頂点の並びを追えば計算できます。

ねこ博士
そう。行に「先にする操作」、列に「あとにする操作」を並べて、交わるマスに積を書く。こういう表をケイリー表という。1854年に、イギリスの数学者ケイリーが、こういう表を使って操作の集まりを調べたんだ。
正三角形の6つの操作のケイリー表。行の操作のあとに列の操作をした結果が、交わるマスに書いてある。紫の文字は回転、金の文字は裏返し。マスをタップすると、その2つの操作を順に行う様子を三角形で再生し、順番を逆にした積のマス(金の枠)と比べる

うさ美
36 個を全部計算すると、どの行にも、6つの操作がちょうど1回ずつ出てきます。列も同じです。それから、r の行と s₁ の列は s₂ なのに、s₁ の行と r の列は s₃ です。左上から右下への対角線で表を折り返しても、重ならないマスがあります。

ねこ博士
よく見たね。ab と ba が等しくならない組があることを、「交換法則が成り立たない」という。では、どの行にも各操作がちょうど1回ずつ出るのはなぜか。r の行で考えよう。r の行に同じ操作が2回出たとする。つまり、異なる x と y で rx=ry になったとする。

うさ美
rx と ry の前に、r の逆の r² をします。すると r²(rx)=r²(ry)。r²r=e なので、左辺は ex=x、右辺は ey=y で、x=y になります。x と y は異なると言ったことと矛盾します。だから同じ操作は2回出ません。6つのマスに6つの操作が重ならずに入るので、ちょうど1回ずつです。

ねこ博士
そう。いまの計算で、r²(rx) を (r²r)x と、かっこの位置を変えたね。それはなぜ許されるのかな?

うさ美
どちらも「r²、r、x の順に3つの操作をする」ことだからです。続けて行う順番さえ同じなら、どこで区切って1つにまとめても、最後の置き方は同じになります。

ねこ博士
そう。この性質を結合法則という。(ab)c=a(bc) だ。操作では当たり前に見えるけれど、どんな計算でも成り立つわけではない。引き算で確かめてごらん。

うさ美
(5−3)−1=2−1=1 ですが、5−(3−1)=5−2=3 です。引き算では、かっこの位置で答えが変わるので、結合法則が成り立ちません。

ねこ博士
そう。いまの証明で使ったことを並べると、群の定義になる。なぜこれを定義にするかというと、この4つがそろっていれば、ax=b のような「操作の方程式」がいつでも解けて、答えがただ1つに決まるからだ。数の世界で 3x=6 を x=2 と解けるように、操作の世界でも「もとに戻す」計算ができる。その計算ができる世界を、群と呼ぶことにしたんだ。
群の定義ものの集まり G と、G の2つのもの a, b から G のもの ab を作る計算(積)があり、次の4つが成り立つとき、G を群という。
① 閉じている:G のどの a, b についても、ab も G に入っている
② 結合法則:どの a, b, c についても (ab)c=a(bc)
③ 単位元がある:どの a についても ae=ea=a となる e が G にある
④ 逆元がある:どの a にも、aa⁻¹=a⁻¹a=e となる a⁻¹ が G にある
① 閉じている:G のどの a, b についても、ab も G に入っている
② 結合法則:どの a, b, c についても (ab)c=a(bc)
③ 単位元がある:どの a についても ae=ea=a となる e が G にある
④ 逆元がある:どの a にも、aa⁻¹=a⁻¹a=e となる a⁻¹ が G にある
なぜこの4つか:G の中で ax=b を x について解く
両辺の前に a⁻¹ をする:a⁻¹(ax)=a⁻¹b(④ で a⁻¹ があり、① で結果も G に入る)
かっこの位置を変える:(a⁻¹a)x=a⁻¹b(② 結合法則)
a⁻¹a=e なので ex=a⁻¹b(④ 逆元の性質)
e は何もしないので x=a⁻¹b(③ 単位元の性質)
答えはこの1つだけ。だからケイリー表の a の行には、どの b もちょうど1回出てくる

うさ美
計算で確かめてみます。rx=s₁ なら x=r⁻¹s₁=r²s₁ で、r² のあとに s₁ をすると s₃ です。実際、r のあとに s₃ をすると s₁ になります。

ねこ博士
そう。数の世界の言葉に合わせて、e を単位元、a⁻¹ を a の逆元という。次は、数の集まりでも群になるかを判定しよう。整数全体を ℤ と書く。ℤ と足し算は群かな? 足し算のときは、積 ab のかわりに a+b と書いて、単位元や逆元も足し算で考えるんだ。

うさ美
整数どうしを足すと整数なので、閉じています。(a+b)+c=a+(b+c) も成り立ちます。単位元は 0 で、a+0=0+a=a。a の逆元は −a で、a+(−a)=0。4つとも成り立つので、群です。

ねこ博士
そう。では、自然数 1, 2, 3, … と足し算はどうかな?

うさ美
足しても自然数なので閉じていて、結合法則も成り立ちます。でも、a+e=a となる e は 0 しかなく、0 は自然数に入っていないので、単位元がありません。0 を仲間に入れたとしても、3+x=0 となる x が自然数にないので、3 に逆元がありません。群ではありません。

ねこ博士
そう。掛け算ではどうかな。ℤ と掛け算、それから 0 以外の有理数と掛け算を調べてごらん。有理数は、整数 a と 0 でない整数 b で a/b と書ける数のことだったね。

うさ美
ℤ と掛け算は、単位元は 1 ですが、2×x=1 となる整数 x がないので、2 に逆元がありません。群ではありません。0 以外の有理数なら、a/b の逆元は b/a で、0 でない有理数どうしの積も 0 でない有理数なので、群です。0 を仲間に入れると、0×x=1 となる x がないので、群ではなくなります。
| 集まりと計算 | ①閉じる | ②結合 | ③単位元 | ④逆元 | 群? |
|---|---|---|---|---|---|
| 正三角形の6つの操作と積 | ○ | ○ | e | ○ | 群 |
| ℤ と足し算 | ○ | ○ | 0 | −a | 群 |
| 自然数と足し算 | ○ | ○ | × | × | × |
| ℤ と引き算 | ○ | × | × | − | × |
| ℤ と掛け算 | ○ | ○ | 1 | ×(2) | × |
| 0 以外の有理数と掛け算 | ○ | ○ | 1 | b/a | 群 |
| 有理数全体と掛け算 | ○ | ○ | 1 | ×(0) | × |
群になる例と、ならない例。4つの条件のうち1つでも欠けると群ではない(×)。×(2)は「2 に逆元がない」という意味。引き算は、a−0=a でも 0−a=a とはならないので単位元もない

ねこ博士
その通り。群の中には、正三角形の操作のように順番で結果が変わるものも、整数の足し算のように変わらないものもある。いつでも ab=ba となる群を可換群、またはノルウェーの数学者アーベルの名前からアーベル群という。アーベルは、第4章の5次方程式の話にも出てくる人だよ。では、図形の対称性をもう1つ調べよう。正方形の頂点に 1, 2, 3, 4 と番号を書いて、枠にぴったりはめ直す置き方は何通りかな?

うさ美
頂点 1 をどの角に置くかで 4 通り、そのたびに表と裏の 2 通りなので、4×2=8 通りです。回転は 0°, 90°, 180°, 270° の 4 つ。正方形の対称の軸は、2本の対角線と、向かい合う辺の真ん中どうしを結ぶ縦と横の線の 4 本なので、裏返しも 4 つです。
正方形の対称性。左回りに 90° 回す操作と、4本の軸(点線)での裏返しを続けて行える。いまの並び(左上・左下・右下・右上の角にある頂点の番号)と、これまでに見つけた置き方の数を表示する。何回操作を重ねても、置き方は 8 通りから増えない

ねこ博士
そう。正方形でも、順番で結果が変わるか確かめよう。はじめに、左上に 1、左下に 2、右下に 3、右上に 4 を置く。左回りに 90° 回す操作を r、縦の軸で裏返す操作を s として、rs と sr を比べてごらん。

うさ美
並びを左上・左下・右下・右上の順に書きます。r で (4, 1, 2, 3)、そのあと s で左右が入れ替わって (3, 2, 1, 4)。2 と 4 が動いていないので、左下と右上を結ぶ対角線での裏返しです。逆に、s で (4, 3, 2, 1)、そのあと r で (1, 4, 3, 2)。こちらは 1 と 3 が動いていないので、もう1本の対角線での裏返しです。rs と sr は違います。
正方形の並び(左上・左下・右下・右上):はじめ (1, 2, 3, 4)
rs:r で (4, 1, 2, 3) → s で (3, 2, 1, 4)(2 と 4 が動かない → /の対角線での裏返し)
sr:s で (4, 3, 2, 1) → r で (1, 4, 3, 2)(1 と 3 が動かない → \の対角線での裏返し)

ねこ博士
そう。正方形の8つの操作も、閉じていて、単位元 e と逆元がある群になっている。図形をぴったり重ねる動かし方の全体は、いつも群になるんだ。次のステージでは、数の世界の群を調べる。時計のように、回るともとに戻る数の世界だ。
【このステージの成果】
ケイリー表:行の操作のあとに列の操作をした積を並べた表。rs₁=s₂、s₁r=s₃ のように交換法則は成り立たない
群の4つの条件:① 閉じている ② 結合法則 (ab)c=a(bc) ③ 単位元 e ④ 逆元 a⁻¹
4つがあれば ax=b はただ1つの答え x=a⁻¹b をもつ → ケイリー表のどの行にも各操作がちょうど1回
ℤ と足し算、0 以外の有理数と掛け算は群。自然数と足し算(単位元・逆元がない)、ℤ と掛け算(2 に逆元がない)は群でない
正方形の対称性は 4×2=8 個の操作の群。図形の対称性はいつも群になる
確認クイズ
Q1. 群の4つの条件にふくまれないものは?
正解! 群の条件は、閉じている・結合法則・単位元・逆元の4つ。正三角形の6つの操作のように、交換法則が成り立たない群もある。いつも ab=ba となる群は可換群(アーベル群)と呼ぶ。
Q2. 自然数 1, 2, 3, … と足し算が群にならない理由は?
正解! 自然数どうしを足しても自然数で、結合法則も成り立つ。けれど単位元 0 が入っておらず、0 を入れても 3 の逆元 −3 がない。整数全体 ℤ まで広げると群になる。
Q3. ケイリー表のどの行にも、各操作がちょうど1回ずつ出る理由は?
正解! a の行で b が出るマスは ax=b となる x の列。両辺の前に a⁻¹ をして結合法則と単位元を使うと x=a⁻¹b とただ1つに決まる。