第1章 STAGE 6
入れ替えの偶奇
転倒数で偶奇を見分ける
🎯 ミッション
どんな置換も互換の積で書けること、そして互換の個数の偶奇は書き方によらないこと(となりどうしの入れ替えで転倒数がちょうど1増減する)を説明しよう。偶置換が部分群で、全体のちょうど半分であることを示せれば合格。
未達成

ねこ博士
いよいよ15パズルの謎に向けた準備だ。15パズルの1手は、空白とタイルの入れ替えだったね。何手か動かすと、タイルが並べ替えられる。この「並べ替え」そのものを計算する道具を作ろう。1 から n の番号を、重ならないように別の番号に付け替えることを置換という。たとえば、1 を 2 に、2 を 3 に、3 を 1 に付け替える置換を (1 2 3) と書く。かっこの中の番号を右どなりの番号に付け替え、いちばん右の番号は左はしの番号に付け替える。かっこに入っていない番号はそのままだ。

うさ美
1, 2, 3, 4 と並んだカードの番号を (1 2 3) で付け替えると、2, 3, 1, 4 になるということですね。(1 2 3) を3回くり返すと、1 は 2→3→1 と回って、もとに戻ります。

ねこ博士
そう。置換も、続けて行うことを積として、群になる。何もしない置換が単位元で、付け替えを逆にたどるのが逆元だ。n 個の番号の置換は、全部で何個あるかな?

うさ美
1 の付け替え先が n 通り、2 の付け替え先は残りの n−1 通り、…と考えると、n×(n−1)×…×2×1 個です。3 個の番号なら 6 個、4 個なら 24 個です。

ねこ博士
そう。その数を n! と書いて「n の階乗」と読む。n 個の番号の置換全体の群を、n 次の対称群といい、Sₙ と書く。正三角形の6つの操作は、頂点の位置 1, 2, 3 の付け替えと見ると、S₃ そのものだ。r は位置を 1→2→3→1 と付け替えるから (1 2 3)、s₁ は位置 2 と 3 を入れ替えるから (2 3) だね。この (2 3) のように、2つの番号だけを入れ替える置換を互換という。互換を組み合わせると、どんな置換が作れるかな。(1 2) のあとに (1 3) をしてごらん。

うさ美
1 は (1 2) で 2 になり、(1 3) では動かないので 2 です。2 は (1 2) で 1 になり、(1 3) で 3 になります。3 は (1 2) では動かず、(1 3) で 1 になります。1→2、2→3、3→1 なので、(1 2)(1 3)=(1 2 3) です。
(1 2)(1 3):まず (1 2)、続けて (1 3) をする
1:(1 2) で 2 → (1 3) では動かない → 2
2:(1 2) で 1 → (1 3) で 3 → 3
3:(1 2) では動かない → (1 3) で 1 → 1
よって (1 2)(1 3)=(1 2 3)

ねこ博士
そう。同じように考えると、k 個の番号が回る (1 2 … k) は、(1 2)(1 3)…(1 k) と k−1 個の互換の積で書ける。では、どんな置換でも互換の積で書けるかな?

うさ美
置換で、1 の付け替え先、その付け替え先、…とたどっていきます。番号は有限個なので、いつか同じ番号に戻ります。付け替え先は重ならないので、最初に戻ってくるのは 1 です。こうして1つの回る組ができます。残った番号から同じことをくり返せば、全部の番号が回る組に分かれます。それぞれの組は互換の積で書けるので、どんな置換も互換の積で書けます。

ねこ博士
その通り。ただし、書き方は1通りではない。互換の個数も、書き方で変わる。では、個数が偶数か奇数かは、書き方で変わるかな?

うさ美
(1 2 3) は (1 2)(1 3) の 2 個で書けて、同じ互換を2回続けると何もしないのと同じなので、(1 2)(1 3)(1 2)(1 2) のように 4 個でも書けます。同じ互換を2回足すと個数は 2 増えるので、偶奇は変わりません。でも、まったく違う書き方をしたときに奇数個になることがないかは、これだけでは分かりません。

ねこ博士
そう。それを確かめる道具が転倒数だ。カードを1列に並べたとき、左にあるカードのほうが大きい番号になっている2枚の組、つまり順番が逆になっているペアの個数をいう。2, 3, 1, 4 の転倒数を数えてごらん。

うさ美
2 と 1、3 と 1 の 2 組が逆になっています。ほかの組は小さいほうが左にあるので、転倒数は 2 です。

ねこ博士
そう。では、となりどうしの2枚を入れ替えると、転倒数はどう変わるかな?

うさ美
入れ替えた2枚どうしの順番は逆になります。でも、ほかのカードとの左右の関係は変わりません。ほかのカードは、2枚の両方より左にあるか、両方より右にあるかのどちらかで、それは入れ替えても同じだからです。だから転倒数は、ちょうど 1 増えるか、1 減ります。
転倒数を数える。カードを2枚、順にタップすると入れ替わる。順番が逆になっているペア(左のほうが大きい番号の2枚)を赤い弧で結び、その本数(転倒数)と、これまでに入れ替えた回数を表示する。どの2枚を入れ替えても、2つの数の偶奇はいつも一致する

ねこ博士
そう。では、となりどうしでない2枚の入れ替えはどうかな。左から i 番目と j 番目(i<j)のカードを入れ替えることを、となりどうしの入れ替えだけで行ってごらん。

うさ美
i 番目のカードを右どなりと入れ替えていくと、j−i 回で j 番目まで行きます。そのとき、もとの j 番目のカードは1つ左の j−1 番目にずれています。それを左どなりと入れ替えていけば、j−1−i 回で i 番目に着きます。合わせて (j−i)+(j−i−1)=2(j−i)−1 回で、いつも奇数回です。
離れた2枚の入れ替え。左から 2 番目のカード(赤)と 5 番目のカード(青)を入れ替えるのに、となりどうしの入れ替えを使うと、赤を右へ 3 回、青を左へ 2 回の、合わせて 5 回(2×(5−2)−1 回)かかる

ねこ博士
そう。となりどうしの入れ替えを1回するたびに、転倒数は 1 増えるか 1 減る。すると、どの2枚を入れ替えても、転倒数の偶奇はどうなるかな?

うさ美
1 回ごとに転倒数の偶奇が入れ替わり、それを奇数回くり返すので、最後は偶奇が逆になります。どの2枚を入れ替えても、転倒数の偶奇は必ず変わります。

ねこ博士
そう。では仕上げだ。1, 2, …, n と並んだカードに、互換を k 回続けて行ったとしよう。

うさ美
はじめの転倒数は 0 で偶数です。互換1回ごとに偶奇が変わるので、k 回のあとの転倒数の偶奇は、k の偶奇と同じです。同じ置換なら、並べ替えた結果は同じで、転倒数も同じです。だから、同じ置換をどんなふうに互換の積で書いても、個数の偶奇は同じです!
となりどうしの入れ替え:転倒数はちょうど 1 増えるか 1 減る(ほかのカードとの左右の関係は変わらない)
i 番目と j 番目(i<j)の入れ替え=となりどうしの入れ替え (j−i)+(j−i−1)=2(j−i)−1 回(奇数回)→ 転倒数の偶奇が必ず変わる
1, 2, …, n(転倒数 0)に互換を k 回 → 転倒数の偶奇=k の偶奇
転倒数は並び方だけで決まる → 同じ置換をどう互換の積で書いても、個数の偶奇は同じ

ねこ博士
その通り。偶数個の互換の積で書ける置換を偶置換、奇数個の互換の積で書ける置換を奇置換という。どの置換も、どちらか一方にだけなる。1, 2, …, n に置換をしてできる並びの転倒数が偶数なら偶置換、奇数なら奇置換だ。S₃ の6つを分けてごらん。

うさ美
e は互換 0 個なので偶置換。(1 2 3)=(1 2)(1 3) と、(1 3 2)=(1 3)(1 2) は偶置換です。(1 2), (1 3), (2 3) は奇置換です。正三角形でいうと、回転 e, r, r² が偶置換で、裏返し s₁, s₂, s₃ が奇置換です。
| 置換 | 1, 2, 3 に すると | 互換の積 | 転倒数 | 偶奇 | 正三角形 |
|---|---|---|---|---|---|
| e | 1, 2, 3 | (0 個) | 0 | 偶 | e |
| (1 2 3) | 2, 3, 1 | (1 2)(1 3) | 2 | 偶 | r |
| (1 3 2) | 3, 1, 2 | (1 3)(1 2) | 2 | 偶 | r² |
| (2 3) | 1, 3, 2 | (2 3) | 1 | 奇 | s₁ |
| (1 3) | 3, 2, 1 | (1 3) | 3 | 奇 | s₂ |
| (1 2) | 2, 1, 3 | (1 2) | 1 | 奇 | s₃ |
S₃ の6つの置換の偶奇。並び 1, 2, 3 の番号を付け替えた結果と、その転倒数。転倒数が偶数のものが偶置換(緑)、奇数のものが奇置換(赤)。正三角形の頂点の位置の付け替えと見ると、回転が偶置換、裏返しが奇置換になっている

ねこ博士
そう。偶置換を全部集めると、部分群になる。確かめてごらん。

うさ美
偶置換と偶置換の積は、偶数個の互換のあとに偶数個の互換を並べたものなので、偶数個で、偶置換です。e は偶置換です。偶置換を互換 t₁t₂…t₂ₘ と書くと、互換は2回続けるともとに戻るので、逆の順番の t₂ₘ…t₂t₁ が逆元になり、これも偶数個です。部分群です。

ねこ博士
そう。これを交代群といい、Aₙ と書く。そして Aₙ は、Sₙ のちょうど半分の大きさだ。n が 2 以上なら、なぜそうなるか分かるかな?

うさ美
偶置換のあとに (1 2) をすると、互換が1つ増えて奇置換になります。奇置換のあとに (1 2) をすると偶置換になります。(1 2) を2回すればもとに戻るので、偶置換と奇置換が1つずつペアになります。だから同じ個数で、ちょうど半分です。S₃ なら 3 個ずつ、S₄ なら 24 の半分で 12 個ずつです。

ねこ博士
そう。STAGE4 のラグランジュの等分割でいうと、Sₙ が、偶置換の部分群 Aₙ と、それをずらしたコピーである奇置換全体の、2つの組にぴったり分かれているんだ。これで15パズルの謎を解く準備がそろった。次のステージで、15パズルの1手1手を互換として数えよう。
【このステージの成果】
置換:番号の付け替え。(1 2 3) は 1→2→3→1。n 個の置換全体は n! 個の群(対称群 Sₙ)
互換:2つだけの入れ替え。(1 2)(1 3)=(1 2 3)。どんな置換も、回る組に分けて互換の積で書ける
転倒数:順番が逆のペアの数。となりどうしの入れ替えでちょうど 1 増減し、離れた2枚の入れ替えは 2(j−i)−1 回(奇数回)のとなりどうしの入れ替え
互換の個数の偶奇は書き方によらない → 偶置換・奇置換が決まる。S₃ では回転が偶置換、裏返しが奇置換
偶置換全体は部分群(交代群 Aₙ)で、(1 2) をするペアで奇置換と1対1 → ちょうど半分
確認クイズ
Q1. 並び 3, 1, 4, 2 の転倒数(順番が逆のペアの数)は?
正解! 逆のペアは (3, 1)、(3, 2)、(4, 2) の 3 組。転倒数は奇数なので、1, 2, 3, 4 からこの並びを作る置換は奇置換。
Q2. 左から 1 番目と 4 番目のカードを入れ替えるのに、となりどうしの入れ替えは何回かかる?
正解! 1 番目のカードを右へ 3 回、ずれた 4 番目のカードを左へ 2 回で、2×(4−1)−1=5 回。いつも奇数回なので、転倒数の偶奇は必ず変わる。
Q3. 4 個の番号の偶置換(交代群 A₄)は何個ある?
正解! 4 個の置換は 4!=24 個。偶置換のあとに (1 2) をすると奇置換になり、これで偶置換と奇置換が1対1にペアになるので、ちょうど半分の 12 個。