🔷 群・環・体からガロア理論へ
第2章 素因数分解の世界 / STAGE 1 ― 2つの謎と数の世界 ―
クリア 0 / 8
第2章 STAGE 1

2つの謎と数の世界

素因数分解の謎と、環という舞台
🎯 ミッション
平方数の和で書ける素数を自分で調べて、4 で割った余りとの関係に気づこう。環(0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算で閉じた数の集まり)の定義と、それに当てはまる例・当てはまらない例を説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
第1章では、回す・裏返す・入れ替えるといった操作を計算する道具、群を作った。第2章では、いちばん身近な数、整数に戻ろう。まず1つ実験だ。素数 2, 3, 5, 7, 11, 13 のそれぞれが、2つの平方数の和で書けるか調べてごらん。0² も使っていいよ。
うさ美
平方数は 0, 1, 4, 9, 16, … です。2=1²+1²、5=1²+2²、13=2²+3² は書けます。3 は 0+1, 1+1, 0+0 のどれでもなく、7 は 7−0, 7−1, 7−4 が 7, 6, 3 でどれも平方数でないので書けません。11 も 11, 10, 7 で書けません。
ねこ博士
そう。50 くらいまでの素数で続けて、書けるものと書けないものに分けてごらん。
うさ美
17=1²+4²、29=2²+5²、37=1²+6²、41=4²+5² は書けます。19, 23, 31, 43, 47 は、平方数を引いた残りがどれも平方数になりません。書けるのは 2, 5, 13, 17, 29, 37, 41 で、書けないのは 3, 7, 11, 19, 23, 31, 43, 47 です。
素数を1つ選んでごらん
2つの平方数の和で書ける素数を探す。素数を選ぶと、p から 0², 1², 2², … を引いた残りが平方数になるかを順に調べ、書ければ ○、書けなければ × をつける。「全部調べる」で 100 未満の素数をすべて調べたあと、「4 で割った余りで色分け」を押すと、余りが 1 の素数(青)・3 の素数(赤)・2(金)に色が分かれる
ねこ博士
書ける素数と書けない素数を分けている規則がある。それぞれを 4 で割った余りを調べてごらん。
うさ美
書ける 5, 13, 17, 29, 37, 41 は、4 で割るとどれも余り 1 です。書けない 3, 7, 11, 19, 23, 31, 43, 47 は、どれも余り 3 です。2 だけは別で、余り 2 で書けます。奇数の素数は 4 で割ると余り 1 か 3 なので、余りだけで書けるかどうかが決まっているように見えます。
ねこ博士
それが1つ目の謎だ。4 で割って 1 余る素数は2つの平方数の和で書け、3 余る素数は書けない。1640年、フェルマーが手紙にこの事実を書いたけれど、証明は残さなかった。最初の証明は、1749年にオイラーが何年も苦労してやっと手紙で知らせたものだ。でも、整数より広い数の世界から見ると、見通しよく証明できる。13=2²+3² だったね。i² = −1 を思い出して、(3+2i)(3−2i) を計算してごらん。
うさ美
『本当はおもしろい複素数の世界』で学んだとおりに展開すると、(3+2i)(3−2i)=9−6i+6i−4i²=9+4=13。……13 は整数の世界では素数ですが、i を使ってよい世界では、2つの数の掛け算に分かれるんですね。a²+b² = (a+bi)(a−bi) なので、2つの平方数の和で書ける数はどれも、こうして分かれます。
ねこ博士
そう。「2つの平方数の和で書けるか」という整数の問題が、「i を使ってよい世界で、掛け算に分かれるか」という問題に言いかえられるんだ。これをきちんと証明するのが、この章の目標の1つだよ。ところが、広い世界に出ると、困ったことも起きる。√−5 を、2乗すると −5 になる数、つまり √5 i として、a+b√−5(a, b は整数)の形の数だけを使う世界を考える。(1+√−5)(1−√−5) を計算してごらん。
うさ美
(1+√−5)(1−√−5)=1−(√−5)²=1−(−5)=6 です。6=2×3=(1+√−5)(1−√−5)。6 の分け方が2通りあります。でも、整数でも 12=3×4=2×6 のように、途中までならいろいろな分け方があります。4=2×2 と最後まで分ければ、どちらも 2×2×3 にそろいます。
ねこ博士
その疑問が大事なんだ。実はこの世界では、2, 3, 1+√−5, 1−√−5 のどれも、この世界の数ではそれ以上分けられない。それを確かめるのは STAGE6 だ。つまり、この世界では素因数分解がただ1通りにならない。これが2つ目の謎だよ。
6 = 2 × 3 6 = 1+√−5 × 1−√−5 整数の分け方 どの部品も、この世界ではもう分けられない
2つ目の謎:6 の2通りの分け方。a+b√−5 の世界では、6 は 2×3 とも (1+√−5)×(1−√−5) とも書ける。整数の 12=3×4=2×6 とちがい、4つの部品はどれもそれ以上分けられないので、最後まで分けても2通りのまま残る
うさ美
1つ目の謎では、広い世界で素数が分かれることが役に立ちそうでした。でも2つ目の謎のように、広い世界では素因数分解が崩れることもあるんですね。どちらの世界でも同じように計算しているのに、何が違うんですか?
ねこ博士
それこそが、この章で突き止めることなんだ。歴史の上でも大事件だった。1847年、ラメという数学者が、こういう広い世界の数を使って「フェルマーの最終定理(3 以上の n で xⁿ+yⁿ=zⁿ をみたす自然数はない)を証明した」と発表した。ところが、その証明は、新しい世界でも素因数分解がただ1通りだと思い込んで使っていて、そこが崩れていた。この章の道具を使うと、こういうことができるようになる。
この章でできるようになること・整数の素因数分解が「ただ1通り」になる理由を、自分の手で証明できる
・ユークリッドの互除法で ax+py=1 を作れる(第1章の mod p の逆数や RSA の秘密鍵も、これで計算できる)
・4 で割って 1 余る素数が2つの平方数の和で書けることを、ガウス整数の世界で証明できる
・6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) がなぜ起きるかを説明し、「イデアル」という部品で素因数分解を修理できる
うさ美
i を使ってよい世界、√−5 を使う世界と言いましたが、そういう世界は、好きな数を集めて自由に作ってよいんですか?
ねこ博士
いい質問だね。それを決めよう。整数どうしを足しても、引いても、掛けても、答えはまた整数だね。こういう、計算しても集まりの外に出ないことを閉じているという。そして、0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算で閉じた数の集まりを環(かん)と呼ぶ。この章では「数の世界」とも呼ぶよ。素因数分解の話をするには、掛け算をしても世界の外に出ないことがまず必要だからね。交換法則や分配法則のような計算の決まりは、もとの数(複素数や整数)から引き継がれるから、確かめるのは「閉じているか」だけでいい。ガウス整数、つまり a+bi(a, b は整数)の形の数全体が環になるか、確かめてごらん。
うさ美
足し算と引き算は (a+bi)±(c+di)=(a±c)+(b±d)i なので、また整数+整数×i の形です。掛け算は (a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bdi²=(ac−bd)+(ad+bc)i で、ac−bd も ad+bc も整数です。0=0+0i と 1=1+0i も入っています。ガウス整数は環です。a+b√−5 なら、(√−5)²=−5 なので (a+b√−5)(c+d√−5)=(ac−5bd)+(ad+bc)√−5 で、やはり閉じています。
ガウス整数:(a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bd i²
=(ac−bd)+(ad+bc)i(i²=−1 を使う)
a+b√−5:(a+b√−5)(c+d√−5)
=ac+ad√−5+bc√−5+bd(√−5)²
=(ac−5bd)+(ad+bc)√−5((√−5)²=−5 を使う)
どちらも「整数+整数×(i や √−5)」の形に戻る → 掛け算で閉じている
ねこ博士
この2つの世界の数は、複素数の平面の上に、規則正しく並んだ点として描ける。ガウス整数は1辺 1 の正方形の角に、a+b√−5 は横 1・縦 √5 の長方形の角に並ぶ。どの2つを掛けても、積はまた同じ並びの点に乗るんだ。
数の世界を点の並びで見る。横が実数の部分、縦が i の部分の複素数の平面に、世界の数を点として並べた。ガウス整数は正方形の目、a+b√−5 は縦に長い長方形の目(縦の間隔 √5≒2.24)、a+b√−2 は縦の間隔 √2≒1.41 の目。z と w(青)を変えると、積 zw(赤)もいつも同じ並びの点に乗る。これが「掛け算で閉じている」ということ
うさ美
足し算については、第1章の群になっていますね。足し算の結果がまた世界の中にあって(閉じている)、結合法則が成り立ち、0 を足しても変わらず(単位元)、a の逆元は −a です。引き算で閉じているので、−a もちゃんと世界の中にあります。
ねこ博士
その通り。環は「足し算については群で、そのうえ掛け算もできる世界」だと言ってもいい。第1章の mod n の世界も環になるよ。0, 1, …, n−1 の中で、足し算・引き算・掛け算の余りを取る世界だったね。では、なぜ環の約束に「割り算」を入れないのか。整数の代わりに、有理数(整数÷整数で書ける数)全体を世界にしたら、素因数分解はどうなるかな?
うさ美
有理数の世界では 6=(1/2)×12=(3/7)×14 のように、0 でないどんな数 c を選んでも 6=c×(6/c) と書けて、6/c も有理数です。どの数もどの数でも割り切れてしまうので、「これ以上分けられない数」が1つもありません。素因数分解を考えるなら、割り算がいつもはできない世界でないといけない、ということですか?
ねこ博士
そう。割り算がいつもできる世界は、第3章で主役になる。この章の舞台は、割り算がいつもはできないからこそ「割り切れる」「約数」が意味をもつ環なんだ。逆に、当てはまらない例も見ておこう。偶数全体はどうかな?
うさ美
偶数+偶数、偶数−偶数、偶数×偶数はどれも偶数なので、計算では閉じています。でも 1 が入っていないので、約束どおりなら環ではありません。
ねこ博士
そう。偶数全体は環ではないけれど、STAGE7 で「イデアル」という別の役で再登場する。もう1つ。3乗すると 2 になる数を ∛2 として、a+b∛2(a, b は整数)の集まりを考える。∛2×∛2=∛4 が a+b∛2 の形に書けるとしたら、両辺に ∛2 を掛けるとどうなるかな?
うさ美
∛4=a+b∛2 の両辺に ∛2 を掛けると、∛4×∛2=∛8=2 なので、2=a∛2+b∛4。右辺の ∛4 にまた a+b∛2 を入れると 2=a∛2+b(a+b∛2)=ab+(a+b²)∛2 です。a+b² が 0 でなければ ∛2=(2−ab)/(a+b²) で、∛2 が有理数になってしまいます。a+b²=0 なら a=−b² で、2=ab=−b³、つまり b³=−2 となる整数 b が必要ですが、ありません。
ねこ博士
そう。最後に、∛2 が有理数でないことを確かめれば完成だ。∛2=m/n(m, n は自然数で、これ以上約分できない分数)としてごらん。
うさ美
両辺を3乗すると 2=m³/n³ で、m³=2n³。右辺は偶数なので m³ は偶数で、奇数の3乗は奇数なので m は偶数です。m=2k とすると 8k³=2n³ で n³=4k³、今度は n も偶数です。m も n も偶数だと約分できるので、矛盾します。だから ∛4 は a+b∛2 の形に書けず、a+b∛2 の集まりは掛け算で閉じていないので環ではありません。
∛4=a+b∛2(a, b は整数)と仮定する 両辺に ∛2 を掛ける:2=a∛2+b∛4=a∛2+b(a+b∛2)=ab+(a+b²)∛2(∛4 にもう一度 a+b∛2 を入れる) a+b²≠0 なら ∛2=(2−ab)/(a+b²) で有理数になる → ∛2=m/n なら m³=2n³ から m も n も偶数になり、約分できない分数にならない a+b²=0 なら a=−b² で 2=ab=−b³ → b³=−2 となる整数はない → ∛4 は a+b∛2 の形に書けない。a+b∛2 の集まりは環ではない
集まり0 と 1足し算・引き算掛け算判定
整数 …, −2, −1, 0, 1, 2, …○○○環
ガウス整数 a+bi○○○環
a+b√−5○○○環
mod n の世界 0, 1, …, n−1○○○環
自然数 1, 2, 3, …0 がない×(2−5)○環でない
偶数全体1 がない○○環でない
a+b∛2○○×(∛2×∛2)環でない
環の例と、当てはまらない例。「0 と 1 を含む」「足し算・引き算で閉じる」「掛け算で閉じる」の3つの約束を全部みたすものだけが環。偶数全体は 1 がないので、a+b∛2 は ∛2×∛2=∛4 が外に出るので、環ではない
うさ美
ガウス整数や a+b√−5 が環になったのは、i² や (√−5)² が整数に戻るからなんですね。∛2 は2乗しても整数に戻らず、新しい ∛4 が出てきてしまいます。
ねこ博士
その通り。これで舞台ができた。次のステージでは、環の中で「これ以上分けられない数」をどう見分けるかを考えよう。そのとき、数の大きさを整数で測る「ノルム」というものさしを作る。それが1つ目の謎への第一歩にもなるよ。
【このステージの成果】 謎1:100 未満の素数では、4 で割って 1 余る素数と 2 は2つの平方数の和で書け、3 余る素数は書けない(フェルマー 1640年、オイラーの証明 1749年) 13=2²+3²=(3+2i)(3−2i):平方数の和は、i を使ってよい世界での掛け算への分解に言いかえられる 謎2:a+b√−5 の世界では 6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) と素因数分解が2通りになる(ラメの証明が崩れた原因と同じ種類の現象) 環:0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算で閉じた数の集まり。足し算については第1章の群。整数、ガウス整数、a+b√−5、mod n の世界は環 割り算は約束に入れない(有理数ではどの数も割り切れて素因数分解が意味を失う)。偶数全体(1 がない)と a+b∛2(∛4 が外に出る)は環ではない

確認クイズ

Q1. 次の素数のうち、2つの平方数の和で書けるものは?

Q2. 次のうち、環(0 と 1 を含み、足し算・引き算・掛け算で閉じた数の集まり)であるものは?

Q3. 素因数分解を考える舞台に、有理数全体を使わない理由は?