🔷 群・環・体からガロア理論へ
第2章 素因数分解の世界 / STAGE 2 ― 単数と既約元 ―
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第2章 STAGE 2

単数と既約元

ノルムで数の大きさを測る
🎯 ミッション
ノルム N(a+bi)=a²+b² が掛け算を掛け算に移すことを式で確かめ、ガウス整数の単数が 1, −1, i, −i の4つだけであること、ノルムが素数なら既約元であることを説明しよう。素数 p が2つの平方数の和で書けることと、ガウス整数の世界で既約元でないことが同じだと示せれば合格。
未達成
ねこ博士
前のステージで、13=2²+3²=(3+2i)(3−2i) のように、2つの平方数の和は、ガウス整数の世界での掛け算への分解になると分かった。逆向き、つまり「ガウス整数の世界で分けられる素数は、2つの平方数の和で書ける」も言えれば、1つ目の謎は「どの素数がガウス整数の世界で分けられるか」という問題に言いかえられる。今日はそのために、広い世界で「分けられる」「分けられない」を正確に決めよう。まず整数で。6=(−1)×(−6) は、6 を分けたことになるかな?
うさ美
なりません。−1 を掛けて符号を変えただけです。(−1)×(−1)=1 なので、−1 で割っても整数の世界から出ません。6=(−1)×(−6) は 6=1×6 と同じくらい、何も分けていません。
ねこ博士
そう。言葉をいくつか決めよう。環の数 z と w について、z=w×c となる c が同じ世界にあるとき、「w は z を割り切る」という。そして、掛けて 1 になる相手が同じ世界にいる数を単数(たんすう)と呼ぶ。整数の単数は 1 と −1 だけだ。単数 u は 1 を割り切るから、どんな数 z も z=u×(u の相手×z) と割り切ってしまう。だから単数を掛けるだけの分け方は、分けたうちに数えないことにするんだ。ガウス整数の単数を探してごらん。
うさ美
1 と −1 のほかに、i×(−i)=−i²=1 なので i と −i も単数です。でも、たとえば 2+i に何かを掛けて 1 にできないかは、試すだけでは分かりません。ガウス整数は無限にあるので、全部は試せません。
ねこ博士
そこで、数の「大きさ」を整数で測るものさしを作る。ガウス整数 a+bi は、複素数の平面で横に a、縦に b 進んだ点だったね。原点からの長さはどうなるかな?
うさ美
三平方の定理で √(a²+b²) です。2+i なら √5 で、√ が残ってしまいます。
ねこ博士
だから、長さそのものでなく長さの2乗を使う。N(a+bi)=a²+b² と決めて、これを a+bi のノルムと呼ぶ。a, b が整数なら、ノルムは 0 以上の整数だ。0 になるのは a=b=0 のときだけだね。このものさしのいちばん大事な性質は、掛け算との相性なんだ。2つのガウス整数 z, w の積のノルムは、どうなるかな?
うさ美
『本当はおもしろい複素数の世界』で、複素数の掛け算は「長さどうしを掛けて、角度どうしを足す」と学びました。zw の長さは z の長さ×w の長さなので、2乗しても掛け算のままです。N(zw)=N(z)×N(w) です。
ねこ博士
そう。ノルムは整数の式だから、複素数を使わずに、式の展開だけで確かめることもできる。z=a+bi, w=c+di として、前のステージで計算した zw=(ac−bd)+(ad+bc)i のノルムを展開してごらん。
うさ美
(ac−bd)²+(ad+bc)²=a²c²−2abcd+b²d²+a²d²+2abcd+b²c²。−2abcd と +2abcd が消えて、a²c²+a²d²+b²c²+b²d²=a²(c²+d²)+b²(c²+d²)=(a²+b²)(c²+d²)。本当に N(z)×N(w) になりました。
ノルム:N(a+bi)=a²+b²(原点からの長さの2乗。0 以上の整数) N((a+bi)(c+di))=N((ac−bd)+(ad+bc)i) =(ac−bd)²+(ad+bc)² =a²c²−2abcd+b²d²+a²d²+2abcd+b²c² =a²(c²+d²)+b²(c²+d²)=(a²+b²)(c²+d²)(±2abcd が打ち消し合う) → N(zw)=N(z)×N(w)
うさ美
この式は、「2つの平方数の和」どうしを掛けると、また「2つの平方数の和」になる、とも読めます。5=1²+2² と 13=2²+3² なら、(1+2i)(2+3i)=2+3i+4i+6i²=−4+7i なので、65=5×13=4²+7²。確かに 16+49=65 です。
ねこ博士
そう。ノルムの掛け算の性質は、そのまま平方数の和の性質でもあるんだ。では、このものさしで単数を調べよう。u が単数で、uv=1 だとすると?
うさ美
両辺のノルムを取ると N(u)×N(v)=N(1)=1。ノルムは 0 以上の整数なので、N(u)=N(v)=1 しかありません。a²+b²=1 になるのは、a² と b² の片方が 1 で片方が 0 のときだけなので、(a, b)=(1, 0), (−1, 0), (0, 1), (0, −1)。ガウス整数の単数は 1, −1, i, −i の4つだけです。2+i はノルムが 5 なので単数ではありません。
ねこ博士
その通り。逆に、ノルムが 1 なら単数だ。(a+bi)(a−bi)=a²−(bi)²=a²+b² だから、a²+b²=1 なら a−bi が掛けて 1 になる相手になる。つまり「単数」と「ノルムが 1」は同じことなんだ。単数を掛けることには、平面の上での意味もある。i を掛けると何が起きるかな?
うさ美
i は長さ 1、角度 90° の数なので、i を掛けると長さは変わらずに 90° 回ります。−1 を掛けると 180°、−i を掛けると 270° 回ります。単数を掛けても、原点からの距離は変わらず、向きが変わるだけです。
2+i −1+2i −2−i 1−2i 2+i に単数を掛ける ×1 → 2+i ×i → −1+2i ×(−1) → −2−i ×(−i) → 1−2i i を掛ける=90° 回す どれもノルム 5(点線の円)
単数を掛けることは、回すこと。2+i に単数 1, i, −1, −i を掛けると、原点のまわりに 90° ずつ回った4つの点になる。どれもノルムは 5 のまま(点線の円の上)。単数を掛けただけの違いは、分解の部品としては同じものと見なす
ねこ博士
そう。だから 2+i と −1+2i のように、単数を掛けただけ違う2つの数は、分解の部品としては同じものと見なすんだ。では、部品の定義だ。0 でも単数でもない数 z が、「z=xy と分けると、x か y のどちらかが必ず単数になる」とき、z を既約元(きやくげん)と呼ぶ。「単数でない2つの数の積には書けない数」、つまり「これ以上分けられない数」のことだ。整数では 2, 3, 5, … の素数と、それに −1 を掛けた −2, −3, −5, … が既約元だね。0 と単数を除くのは、0 はどんな数を掛けても作れるし、単数は分解の部品として何の役にも立たないからだよ。
うさ美
ノルムを使えば、既約元かどうかも整数で調べられそうです。z を単数でない2つの数 x, y の積に分けたら、N(z)=N(x)×N(y) で、N(x) も N(y) も 1 より大きい整数です。だから、N(z) が素数なら、そんな分け方はできません。ノルムが素数のガウス整数は既約元、ということですか?
ねこ博士
その通り。2+i はノルム 5 だから既約元、1+i はノルム 2 だから既約元だ。さて、整数の世界の素数 2, 3, 5, 7 は、ガウス整数の世界でも既約元かな?
うさ美
2 のノルムは 2²=4 です。分けるならノルム 2 の数どうしで、1+i がそうです。(1+i)(1−i)=1−i²=2 なので、2 は分けられます。3 はノルム 9 で、分けるにはノルム 3 の数が要ります。でも a²+b²=3 は、a² も b² も 3 以下なので 0 か 1 で、和は 0, 1, 2 にしかなりません。3 は既約元です。5 は (2+i)(2−i)=4−i²=5 で分けられます。7 は a²+b²=7 が要りますが、7−0, 7−1, 7−4 がどれも平方数ではないので、既約元です。
ねこ博士
よく確かめたね。整数の世界の素数でも、広い世界では分けられることがある。そして、分けられたのは 2 と 5、分けられなかったのは 3 と 7。前のステージの謎とそろっているね。ここで今日の目標の言いかえを完成させよう。素数 p が、ガウス整数の世界で単数でない2つの数の積 p=zw に分けられたとする。z について何が言えるかな?
うさ美
N(z)×N(w)=N(p)=p² です。N(z) も N(w) も 1 より大きい整数で、掛けて p² になる組は p×p しかありません。だから N(z)=p で、z=a+bi と書くと a²+b²=p。p は2つの平方数の和で書けます。逆に p=a²+b² なら p=(a+bi)(a−bi) で、どちらもノルム p なので単数ではありません。2つは同じことです!
素数と2つの平方数の和整数の素数 p について、次の2つは同じことである。
・p は2つの平方数の和 a²+b² で書ける
・p はガウス整数の世界で既約元ではない(単数でない2つの数の積に分けられる)
理由:p=zw なら N(z)N(w)=p² で N(z)=N(w)=p。z=a+bi なら a²+b²=p。逆は p=(a+bi)(a−bi)
素数 p4 で割った余りガウス整数での姿2つの平方数の和
22(1+i)(1−i)1²+1²
33既約元×
51(2+i)(2−i)1²+2²
73既約元×
113既約元×
131(3+2i)(3−2i)2²+3²
171(4+i)(4−i)1²+4²
193既約元×
ガウス整数の世界での小さい素数。4 で割って 1 余る素数と 2 はガウス整数の世界で2つに分かれ、その分け方から2つの平方数の和が読み取れる。4 で割って 3 余る素数は、ガウス整数の世界でも既約元のまま残る
ねこ博士
これで1つ目の謎は、「4 で割って 1 余る素数は、ガウス整数の世界で既約元でない」を示せばよい、という形になった。最後に、点の並びの上でノルムを見ておこう。ノルムが k の数は、原点からの距離が √k の円の上にある。a+b√−5 の世界では、a+b√−5 は横 a・縦 √5 b の点だから、ノルムは長さの2乗で N(a+b√−5)=a²+5b² になる。長さの2乗だから、こちらも N(zw)=N(z)N(w) が成り立つ。展開しても (ac−5bd)²+5(ad+bc)²=(a²+5b²)(c²+5d²) と確かめられるよ。
うさ美
a+b√−5 の世界の単数は、a²+5b²=1 から b=0, a=±1 なので、1 と −1 の2つだけです。それに a²+5b² は、b が 0 でなければ 5 以上なので、ノルム 2 や 3 の数はありません。
ノルムの円。選んだ世界の数を点として並べ、原点からの距離が √k の円(金の点線)を描いた。円の上の点(赤)が、ノルムがちょうど k の数。k=1 の円の上の点が単数で、ガウス整数では4つ、a+b√−5 では2つ。ガウス整数で k=2, 5, 13 にすると 2, 5, 13 を分ける数が見つかり、k=3, 7 の円の上には点がない。a+b√−5 では k=2, 3 の円の上に点がない
ねこ博士
その通り。STAGE6 では、このことが a+b√−5 の世界の謎を解く手がかりになる。今日分かったのは、既約元の見分け方だ。でも、既約元が分かっただけでは、素因数分解が「ただ1通り」かどうかはまだ分からない。次のステージでは、「ただ1通り」が正確には何を言っているのかを調べよう。
【このステージの成果】 単数:掛けて 1 になる相手が同じ世界にいる数。単数を掛けるだけの分け方は、分けたうちに数えない ノルム=原点からの長さの2乗。N(a+bi)=a²+b²、N(a+b√−5)=a²+5b²。展開して N(zw)=N(z)N(w) を確かめた 単数=ノルム 1 の数。ガウス整数の単数は 1, −1, i, −i(掛けると 90° ずつ回る)、a+b√−5 の単数は ±1 既約元:0 でも単数でもなく、単数でない2つの数の積に書けない数。ノルムが素数なら既約元 ガウス整数では 2=(1+i)(1−i)、5=(2+i)(2−i)、3 と 7 は既約元 素数 p が2つの平方数の和で書ける ⇔ p がガウス整数の世界で既約元でない(p=zw なら N(z)=p)

確認クイズ

Q1. ガウス整数 a+bi の単数(掛けて 1 になる相手がいる数)は?

Q2. N((a+bi)(c+di))=(a²+b²)(c²+d²) を展開で確かめるとき、途中で打ち消し合う項は?

Q3. 素数 p がガウス整数の世界で単数でない2つの数の積 p=zw に分けられたとき、言えることは?