🔷 群・環・体からガロア理論へ
第2章 素因数分解の世界 / STAGE 3 ― 「ただ1通り」の正体 ―
クリア 0 / 8
第2章 STAGE 3

「ただ1通り」の正体

素元の性質が一意性を支える
🎯 ミッション
素因数分解の一意性の正確な意味(並べる順番と単数の違いを除いて1通り)を言えるようにし、分解が必ず終わる理由をノルムで説明しよう。既約元がどれも素元(p が ab を割り切れば a か b を割り切る)なら一意性が成り立つことを説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
前のステージで、「これ以上分けられない数」=既約元(0 でも単数でもなく、単数でない2つの数の積に書けない数)を、ノルムで見分けられるようになった。ここで、ラメがつまずいた問いに戻ろう。新しい世界でも素因数分解は「ただ1通り」になるのか。それを判定するには、まず整数の世界で「ただ1通り」がなぜ成り立つのか、そのしくみを突き止める必要がある。しくみが分かれば、あとはそれぞれの世界で、そのしくみが働くかを確かめればいいからね。最初に、そもそも分解が最後までできるかを確かめておこう。ガウス整数 z が 0 でも単数でもないとき、既約元の積に必ず分けられるかな?
うさ美
z が既約元ならそれで終わりです。既約元でなければ、単数でない x, y で z=xy と分けられます。N(z)=N(x)N(y) で、N(x) も N(y) も 2 以上なので、N(x) も N(y) も N(z) より小さくなります。x や y がまた分けられるなら、同じように分けます。分けるたびにノルムが小さくなり、ノルムは 1 より大きい整数なので、いつまでも小さくなり続けることはできません。だから必ず既約元の積で止まります。
ねこ博士
そう。分解があることは、ノルムが整数だからすぐに言える。問題はただ1通りかのほうだ。整数の 12 で考えよう。12=2×2×3 と 12=3×2×2 は別の分け方かな? (−2)×2×(−3) はどうかな?
うさ美
順番を変えただけなので、同じ分け方です。(−2)×2×(−3) も、2 と 3 に単数 −1 を掛けただけで、部品は同じです。順番と、単数を掛ける違いは数えない、ということですね。
ねこ博士
そう。正確にはこう言う。「0 でも単数でもない数は、既約元の積に分けられる。その分け方は、並べる順番と、単数を掛ける違いを除いて、ただ1通り」。これを素因数分解の一意性という。ガウス整数では単数が4つあるから、単数の違いが見えにくくなる。5=(2+i)(2−i) だったね。(1+2i)(1−2i) も計算してごらん。
うさ美
(1+2i)(1−2i)=1−4i²=5。5 が別の2つの既約元の積になっています。……でも、i(2−i)=2i−i²=1+2i、−i(2+i)=−2i−i²=1−2i です。1+2i は 2−i に単数 i を掛けた数で、1−2i は 2+i に単数 −i を掛けた数なので、部品は同じです。
5 = 5 = 2+i2−i 1−2i1+2i × × ×(−i) ×i (−i)×i=1 なので、積は変わらない
見かけは違っても、同じ分け方。5=(2+i)(2−i) と 5=(1−2i)(1+2i) は、部品どうしが単数(−i と i)を掛けただけの違い。(−i)×i=1 だから、2つの単数をそれぞれの部品に掛けても積は変わらない。一意性は、こういう違いを除いて1通り、という意味
ねこ博士
そう。では、なぜ整数ではただ1通りなのか。鍵になるのは、素数がもつ次の性質だ。素数 p が2つの数の積 ab を割り切るとき、何が言えるかな? たとえば 7 が ab を割り切るとき。
うさ美
ab の素因数分解の中に 7 があるはずで、ab の素因数は a の素因数と b の素因数を合わせたものなので、7 は a か b のどちらかを割り切ります。……でも、これは「素因数分解はただ1通り」を知っているから言えることです。一意性の理由を知りたいのに一意性を使ったら、ぐるぐる回りになってしまいます。
ねこ博士
いいところに気づいたね。だから順番を逆にする。「p が ab を割り切るなら、p は a か b を割り切る」という性質を、一意性を使わずに証明し、そこから一意性を導くんだ。0 でも単数でもなく、この性質をもつ数を素元(そげん)と呼ぶ。整数の素数が素元であることは、次のステージで割り算を使って証明する。今日は、素元の性質があれば一意性が出てくることを確かめよう。その前に、当てはまらない例を見ておく。6 で試してごらん。
うさ美
6 は 4×9=36 を割り切りますが、4 も 9 も割り切りません。6=2×3 の 2 は 4 のほうに、3 は 9 のほうに入っていて、6 がまるごと片方に入るわけではないからです。6 は素元ではありません。
素元かどうかを表で調べる。行が a、列が b で、n が積 ab を割り切るマスに色をつけた。緑は「n が a か b を割り切る」マス、赤は「n が ab を割り切るのに、a も b も割り切らない」マス。赤が1つでもあれば n は素元ではない。n を 2, 3, 5, 7, 11 にすると赤が消え、4, 6, 8, 9, 10, 12 では赤が現れる
ねこ博士
そう。素数でない数には、こういう「分かれて入る」ことが起きる。逆に、素元は必ず既約元になる。p が素元で、p=xy と分けられたとしよう。x か y が単数になることを示してごらん。
うさ美
p=xy なので、p は xy を割り切ります。素元の性質で、p は x か y を割り切ります。x を割り切るとすると x=pc と書けて、p=xy=pcy。両辺を p で割ると 1=cy なので、y は単数です。y を割り切るときも同じで、x が単数です。だから素元は既約元です。
ねこ博士
その通り。両辺を p で割れたのは、ここで扱う世界の数がどれも複素数だからだね。0 でない複素数では割り算ができるから、「pX=pY なら X=Y」と打ち消せる。さて、いよいよ本題だ。既約元がどれも素元である世界で、ある数が2通りに分けられたとしよう。p₁p₂…pr=q₁q₂…qs(p も q もすべて既約元)。p₁ に注目すると、何が言えるかな?
うさ美
p₁ は左辺を割り切るので、右辺の q₁q₂…qs も割り切ります。右辺を q₁ と、残りの q₂…qs の積と見て素元の性質を使うと、p₁ は q₁ を割り切るか、残りを割り切ります。残りを割り切るなら、また q₂ と残りに分けて同じことをします。くり返すと、p₁ は q₁, q₂, …, qs のどれかを割り切ります。それを qj とすると qj=p₁×c と書けて、qj は既約元で p₁ は単数ではないので、c は単数です。
ねこ博士
そう。つまり p₁ と qj は、単数を掛けただけの違いの同じ部品だ。そのあとはどうするかな?
うさ美
両辺を p₁ で割ります。左辺は p₂…pr、右辺は qj の代わりに単数 c が残った積になります。c は残りのどれかの q に掛けておけば、単数を掛けた既約元のままです。同じことをくり返すと、部品が1つずつ打ち消されていきます。もし片方の部品が先になくなったら、反対側に「既約元の積=単数」が残りますが、既約元のノルムは 2 以上なので積のノルムも 2 以上で、ノルム 1 の単数にはなれません。だから両側の部品は同時になくなって、2つの分け方は、順番と単数の違いを除いて同じです。
部品を1つずつ打ち消す。同じ数を2通りに既約元の積で書き、上の段の先頭の部品が、下の段のどの部品を割り切るかを探す。素元の性質があるので必ず見つかり、相手は単数を掛けただけの違い。2つを打ち消すと、単数は下の段の残りに掛けて持ち越す。最後に何も残らなければ、2つの分け方は同じだったことになる
ねこ博士
よく組み立てたね。まとめると、既約元がどれも素元なら、素因数分解はただ1通りになる。この証明では、素元の性質のほかに何を使ったかな?
うさ美
分解が必ず終わることと、片方が先になくならないことに、ノルムが 1 以上の整数で、掛け算を掛け算に移すことを使いました。あとは、0 でない数で両辺を割れることです。だから、ノルムがある世界なら、残る問題は「既約元がどれも素元か」だけです。
素因数分解の一意性:0 でも単数でもない数は既約元の積に分けられ、その分け方は、並べる順番と単数を掛ける違いを除いて1通り 分けられること:分けるたびにノルム(1 より大きい整数)が小さくなるので、必ず止まる 素元:0 でも単数でもなく、「p が ab を割り切るなら、p は a か b を割り切る」数。素元は既約元(p=xy なら x=pc として 1=cy) 既約元がどれも素元なら:p₁…pr=q₁…qs → p₁ はどれかの qj を割り切る → qj=p₁×(単数) → 両辺を p₁ で割る → くり返す → 既約元がどれも素元なら、素因数分解はただ1通り
ねこ博士
その通り。逆に言えば、ある世界で素因数分解が崩れるのは、「既約元なのに、素元の性質をもたない数」がいるときだ。STAGE1 で見た a+b√−5 の世界の 6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) を、この言葉で見てごらん。2 は (1+√−5)(1−√−5) を割り切るかな?
うさ美
(1+√−5)(1−√−5)=6=2×3 なので、2 は割り切ります。もし 2 が素元なら、2 は 1+√−5 か 1−√−5 を割り切るはずです。でも (1+√−5)÷2=1/2+(1/2)√−5 は、a, b が整数でないので、この世界の数ではありません。1−√−5 も同じです。だから、2 は素元ではありません。
ねこ博士
そう。2 が既約元であることは STAGE6 で確かめる。そうすると、2 は「既約元なのに素元でない」数になり、一意性が崩れる理由がはっきりする。では、整数の世界の素数は、なぜ素元なのか。その答えは、小学校からおなじみの余りのある割り算にある。次のステージで証明しよう。
【このステージの成果】 素因数分解の一意性:既約元の積への分け方は、並べる順番と単数を掛ける違いを除いて1通り(例:5=(2+i)(2−i)=(1−2i)(1+2i) は同じ分け方) 分解が必ず終わるのは、分けるたびにノルム(1 より大きい整数)が小さくなるから 「p が ab を割り切れば a か b を割り切る」は、一意性を知っていれば言えるが、一意性の証明に使うとぐるぐる回りになる 素元:p が ab を割り切るなら a か b を割り切る数。素元は既約元。6 は素元ではない(4×9=36) 既約元がどれも素元なら、部品を1つずつ打ち消し合わせて、素因数分解はただ1通り。崩れるのは「既約元なのに素元でない数」がいるとき

確認クイズ

Q1. ガウス整数で 5=(2+i)(2−i)=(1−2i)(1+2i) となることは、一意性に反する?

Q2. 6 が素元(p が ab を割り切れば a か b を割り切る数)でないことを示す例は?

Q3. 既約元がどれも素元だと、なぜ一意性が言えるのか?